続・スリフトの依頼④
三人は言われた通り一匹ずつ集中して攻撃していく。もちろんその間他のグレイウルフ達が攻撃してくるが、戦闘を早く終わらせるためには致し方ない。傷なら後で治してあげるから我慢してくれ――そう思いつつ俺は子供達の戦いを見守った。
作戦が効を奏したようで敵の数が一匹、また一匹と減っていく。
「やぁッ!」
アベルが剛破動を使った。剣を扱うアベルならではの技。その名も剣舞一の型――鬼影刃。破力を剣に纏わせ斬撃として打ち放つ技である。威力自体は迅衝波に及ばないまでもその切れ味と射程の長さは才崎さんのお墨付きだ。
アベルの放った破力の斬撃は風を斬りながらグレイウルフ目掛け飛んでいく。その速さはフィリアの間合いを詰める速さに優るとも劣らない――さすがにグレイウルフもその速さとなると反応しきれず、結果として脇腹を破力の刃に深々と切り裂かれることとなった。
肉と肉の切れ間から赤々とした鮮血が止めどなく溢れ、回復手段を持たないモンスターはその場に力無く倒れ込む。
そしてそのまま二度と立ち上がることなく、静かに砂と化したのだった。
「…………やったぁ!」
自然と子供達から歓声が上がった。俺は口元に笑みを浮かべつつ歩み寄る。やはり三人の笑顔を見てると此方まで嬉しくなってしまうのだ。
「凄いじゃないか三人とも」
「へへーん。凄いでしょ」
フィリアが鼻先を人差し指で擦りながら自慢気に言う。本来だったら男の子がやりそうな行動だが、まぁ男勝りで勝ち気な彼女だからこそそんなことをしていても違和感無く納得してしまう。で、当の男性陣はというと「やったね」と花畑でクスクスと微笑む少女よろしく控え目な喜び方だった。これはこれで納得してしまうのも、やはり問題があるのだろうか……。
ともあれモンスターは倒した。これで登山を再開できるというもの。俺は三人に先立って歩き始める。が、直ぐにフィリアが俺を追い越し、元気良く先頭を歩いていった。
早朝から始まったこの登山、腹具合からしてそろそろお昼になろうかという頃か。あの厚い雲の向こう側では太陽が空高く昇っていることだろう。
現在地は山脈の奥地――雲のせいで陽射しを浴びることは無くとも険しい山道をモンスターを蹴散らしながら進めば息は上がるし汗もかく。だがこれも依頼を達成するためには我慢せねばならない。
まぁ一つだけ我が儘を言わせてもらうとしたら……もう少しモンスターとのエンカウント率を下げてもらいたい。ホント、先程のグレイウルフとの一戦を皮切りに様々なモンスターと連戦に連戦を重ねているのだ。一体何が原因でこうなったかはわからないが、子供達が疲れない程度を望むばかりだ。
さて、目的地であるクラッススの滝はそろそろのはずなのだが……一向にその姿を見せる気配がない。はてさてどうなることやら――と、俺が人知れず肩を竦めた時だった。
「先生~」
「どうしたエルリック」
「何か聞こえない?」
「え?」
エルリックは耳に手を添え、その音が聞こえてくるという方角に顔を向ける。俺も右に倣えと耳に手を添え耳をすませた。
すると――。
「あ……ん?」
ごくごく僅かだが遠くからドドドドという音が聞こえてきた、気がする。それほどまでに僅かなのだ。
「先生聞こえた? ドドドドって」
ふむ、どうやらエルリックの聞こえたものと俺が聞こえたものは同じもののようだ。
「あぁ、たぶん……だけど」
「多分滝の音だよ! 行ってみよう!」
言ってエルリックは予定の進路を若干逸れる様にして道なき道を進み始めた。
「お、おい。ちょッ」
俺の制止は効を奏した様子は無く、今度はエルリックを先頭に三人は歩き出してしまう。ハァ――こうなっては付いていくしかあるまい。
俺は再び、今回は先程に比べもう一回り大きく肩を竦めた。