続・スリフトの依頼②
目の前にはモンスターが三匹――うち二匹が既に飛びかかって来ていた。いつもだったら距離を取ろうとするこの状況で、俺はわざわざ自ら距離を詰めている。こんな行動に移れるのも破動を使えるようになったからだ。
錬破動、礎式一の型――活真功。破力を丹田に溜め、全身に行き渡らせる破動。これを使うことで身体能力が格段に飛躍するのだ。
そのため走り出しより更に素早く間合いを詰めることが出来た。結果モンスターの目測を誤らせることになる。俺は飛びかかる二匹の下に潜り込むと脚に力を込め飛び上がらんばかりに地を蹴る。その勢いを両の拳に乗せガラ空きとなったモンスターの腹部に叩き込んだ。
しなやかな筋肉の感触と共にドンッという鈍い音が耳に届いた。そして拳がモンスターと密着しているこの僅かな時間、更に追い打ちを仕掛ける。
剛破動、白打一の型――迅衝波。破力を拳に集中させ、一気に爆発させる。射程は短いが威力は才崎さんのお墨付きだ。
モンスターとほぼ密着した状態での迅衝波――破力は轟音と共に爆発し、モンスターの体を二つに分断させた。鮮血が桜吹雪の如く舞い、肌に触れる。モンスターは地に落ちると同時に砂と化した。
この寸劇を前に残りの一匹は急遽足を止めた。そして一息に反転すると逃亡の体勢に入り一目散に走り始めた。だが残念ながら逃がすわけにはいかない。俺はそのまま宙に魔方陣を描き詠唱を始める。
そして――。
「――サンダーボルトッ!」
パチンッという音と共に魔方陣から無数の雷の腕が現れ、逃げていくモンスターを一瞬にして絡め取った。と同時に落雷にも似た爆音を響かせ、目映い閃光を発しながらモンスターを屠った。
おぉ……自分で言うのもなんだけど、俺――強くなってないか? ちゃんとレベルアップしてるんじゃないか? さりげなくかっこよかったんじゃないか? フフフ。
などと一人にやけてしまってはいるが、こうして実戦をこなすことで今までの経験や才崎さんとの一週間も無駄ではなかったということが実感できる。というか先生としてちゃんと成長していて本当に良かった。
さて、さんな先生の教え子はどうなっているのか――ぐるりと振り返ってみる。
「ほほう……」
三人は俺が倒したモンスターと同じモンスター四匹と戦っている真っ最中だった。ちなみにあの狼型のモンスターの名前はグレイウルフと言う、とギルドノートに書いてあった。
話を戻すが、グレイウルフを前にアベルは剣を構え、フィリアはレザーグローブを着けた拳を握りしめ構えている。エルリックは少し後方からいつでも魔方陣を描けるように準備していた。
三人と四匹の周りには僅かながら地が抉れていたり茂みが焼け焦げていると言った戦いの痕跡が窺えた。おそらく俺がモンスターを瞬殺していた間に一悶着あったのだろう。
まぁ何があったかは後で聞くとして、とりあえず今は距離を取って成り行きを見守ることにした。
指導する者として物事を客観的に捉えるというのも大事なのだ。たぶん――と、一人ウンウン頷いているとグレイウルフと三人に動きが見られた。
最初に飛び出したのはフィリア。錬破動を上手く利用してグレイウルフ達との距離をあっという間に詰める。
そしてそのうちの一匹の眼前に迫り――。
「やぁーーー!」
という大きな掛け声と共に右足を思い切り振り上げた。振り上げられた足はモンスターの首目掛け、鞭の様にしなる蹴りとなり凄まじい勢いで叩き込まれた。それはまさに頭を刈り取らんばかりの勢い――グレイウルフの頭はボールの様に地面の上で跳ね上がる。
あれは……痛いだろうに――俺は思わず自分の側頭部を撫でた。