島巡り
ルカとの挨拶が済んだ俺は再び歩き出した。もちろん、島一周を為し遂げるためである。ルカはというと俺の肩に腰掛け軽快に鼻唄を歌っていた。
これで全く重たくないのだから不思議である。レディに年齢と体重を聞くことは本来タブーとされているが、ここまで来ると逆に興味がそそられる。機会があれば聞いてみよう。
リスタートしてかれこれ十分、現在俺は剥き出しになった大地――舗道なんてものが無いため――を歩いているわけだが、如何せん陽射しが強く、情けないことにへばってしまった。今はまだ一月なのにこの太陽はなんなのか、ってかこの島自体なんなのか、と責任を周りに押し付けてみたりしたが、なんだかんだで結局は日頃の運動不足が祟ってのことなのだろう。ここは我慢して大人しく前に進むことにした。
しかしそんな健気な俺に追い討ちをかける様に新たなモンスターが二体も出現した。
「ったく疲れてるってのに!」
先程のスライムとは違い今度は人型のモンスターだ。人間の様な背格好で丸っ鼻。身長こそ俺の腰ぐらいしかないが、それを補って余りあるほどの凶器――人間の二の腕くらいの太さはあろうかという棍棒を携えているのだから質が悪い。
「あ、ゴブリンじゃない」
ルカが言った。
「ゴブリンだって?」
「そ、あの棍棒が特徴的ね」
ふむ。ゴブリンと言えば名作『ファイナルクエスト』のザコキャラ。スライムと対を成すザコの代名詞と言っても過言ではない。
しかし実物はどうだろう。なんと凶暴そうなことか。いや、その前にあの棍棒はいかんだろう。いくら体操着で防御力が上がったとは言え――これはこれで可笑しな話であるが――あれで殴られたら失神どこの騒ぎでは済まない気がする。
「あ~もう、チョー痛そうじゃん」
言いながら俺は腰を低くして構えた。
「ねぇねぇ、ショウ」
「何? 話なら手短にな」
「武器は?」
「無いよ。見りゃわかんでしょ」
「ちょ、素手とか。アハハハハハハハ」
ルカは腸捻転を起こさんばかりに俺の肩で笑い転げている。しかし武器が無いのは仕方ない。手ぶらでここに来てしまったのだから。とは言っても武器は欲しい。俺はダメもとでルカに聞いてみた。
「なぁ、武器とか出せないの?」
「ハハハハハハッ、ハ?」
どんだけ笑うつもりなのか。
「だ~か~ら、武器とか出せないわけ? 体操着みたいに」
「なんだ、折角だから素手で戦えばいいのに」
折角とは何だ。さっきまでスライム相手に素手で十分戦った。
「まぁでも一応そこまでは契約に入ってるし、ちゃんとやらせてもらいますよ」
契約という言葉が少々気になったがそれは後で聞くとして……ここは注意せねば。先程の体操着事件の二の舞にならぬためにも、いつ記憶からデザインを引っ張り出されてもいいようにカッコイイ武器を想像する。
「よいしょっと。はい、これ」
うそ? もう終わり? 早くね? 色々想像してたんだけど……うん、うわぁ……なんか魔法使いとか使ってるっぽい杖だぁ。
ルカがものの数秒で具現化した武器は木の棒に赤い珠の付いた杖だった。
「どう? 見習いの魔法使いにはもってこいの武器でしょ?」
ええそうですとも。別にカッコイイ剣とか全然考えてなかったですし。俺も杖が良かったと心の底から思ってましたとも。でも何だろう、この胸に広がる切なさは。
「さ、これで一式揃ったことだしチャチャっとやってしまおう!」
何か釈然としないが……とりあえずゴブリンを倒してしまう事には賛成だ。