表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
79/144

続・スリフトの依頼

 

 翌日――。

 森で迎える朝は静かだった。昨晩酷く吹き荒れていた風も今は止み、木々のざわめきすら聞こえない。まさに物音一つ聞こえてこない静寂の世界である。

 俺はテントから脱け出し背筋を伸ばしがてら深呼吸――朝の空気を体内に取り入れる。いつの間にか一雨降っていたようで、濡れた土と木の香りがした。

 空を見上げるようにして木々の切れ間を覗く。森に立ち込める霧のせいではっきりとは見えないが、空は昨日と打って変わって厚い雲に覆われているようだった。雨をしこたま蓄えている、そんな色をしている。今日一日もってくれることを祈るばかりだ。

「ふぁ~、へんへ~おふぁよほぉ~」

「おはようフィリア。よく眠れたみたいだね」

 フィリアは目を擦りながら小さく頷いた。さて、残る二人はどうなっているのか――テントを覗いてみる。中ではアベルとエルリックが上半身を起こした状態で眠気眼を擦っていた。どうやら起こすまでもなかったみたいだ。

 俺は「おはよう」と一言声をかけ朝御飯の支度を始めた。そして支度が終わる頃に丁度よくアベルとエルリックが顔を出し、四人揃って朝御飯を食べた。

 朝御飯が終わるといよいよ登山だ。正直朝御飯を食べている間に晴れてくれれば、と思ったがそうはならず結局曇り空の下登り始めることになった。

 ジェスラー山脈――大陸の中央部を東西に走る世界有数の山脈。かつては交通の要所である一方難所として幾人もの旅人の命を奪った山脈であったが、ミルメースが貿易都市として発展していくと共に姿を変えていった。

 結論から言えば、危険だった山道は貿易品を迅速かつ安全に運ぶため舗装され、そのお陰もあって今では誰しもが安全に通れる交通の要所として機能している。が、そこに至るまで様々な苦難や苦闘があったそうで……まぁ、その歴史についてはまた今度読むことにしよう。

 俺はギルドノートをしまい道無き道を進んだ。出来ればその舗装された安全な山道を歩きたかったが仕方ない。ホント――昨晩の雨のせいか、地面がぬかるんでいるため歩きにくいことこの上ない。だが子供達はこんな時でも元気一杯だ。振り返ると三人は俺の後に付いてきながら泥んこ遊びに夢中になっている。器用な子達だ。

「ほら、遊んでないで。ちゃんと前見て歩かないと転ぶぞ~」

「はーい」

 何とも心の籠っていない返事。この子達にとっては泥すら玩具になってしまうのか。そんなに楽しいなら混ぜてくれ。言葉にならない言葉を心の中で呟き、ハァ――と一つ盛大に溜め息をつく。

 そして視線を前に戻した――のと同時だった。

 近くの茂みでガサガサッと何かが動く物音がした。体が一気に緊張する。後ろの三人もいつの間にか静かになっていた。辺りに静寂が訪れる。

 この『狙われている』という感覚……おそらくはモンスターだろう。神経を研ぎ澄ませ様子を窺った。僅かな音を聞き取り敵の様子を探る。一、二……ふむ、全部で六、いや……七体か。

 俺達を囲むようにして移動しているようだ。俺はエルリックを中心に三人に円になるよう指示した。

 各自武器を手に辺りに気を配る。少しずつ、少しずつだが緊張が高まっていくのがわかる。腰を低くし、相手の出方を待った。

 そして、張り詰めた緊張がピークに達した時だった。

「ガァァァァアッ!」

 目の前にある茂みからモンスターが飛び出してきた。狼の様な姿をしたモンスターは大きな口を開け、鋭利な牙を剥き出しにして襲いかかってきたのだ。

「来るぞッ!」

「はいッ!」

 背後から力強い返事が三つ聞こえる。フフフ、頼もしいじゃないか。

 俺はモンスターを迎え撃つ形で飛び出していた。 



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ