続・みんなでお仕事⑨
今度の魔法は反射されても大丈夫そうな魔法をチョイスした。
「身を潜めし水霊の荒ぶる心を解き放つ――」
モンスターの後ろ足に照準を合わせ、放つ。
「――水砲ッ!」
今回チョイスした魔法は先程の『火』属性とは逆の『水』属性の魔法だ。これなら反射してモロに食らっても大丈夫そうだし――何よりモンスターの耐性を考慮しての選択だった。
何故なら通常耐性がある場合、その耐性とは逆の属性が弱点となりやすいからだ。というわけで『火』の反対の『水』。本当なら『氷』でも良かったのだが、反射された場合大怪我に繋がりかねなかったため自重した。
魔方陣から生じた青い球体――魔力によって超圧縮された水――は勢いよく飛んでいく。で、結果は――。
「うそーん!」
反射された。しかも単に反射したわけでなく、物理の法則を無視してちゃんと俺に向かって反射してきたのだ。
まぁ今回は一応警戒していたから直撃は免れたものの――これはいよいよヤバイかもしれない。魔法を弾くという特性が一気に現実味を帯びてきた。それと同時に先の見えない迷路に迷いこんでしまった気がした。
マジか。ってかどうしろってんだ。でも何とかするしかないか……。
お恥ずかしながら解決法を見出だせない俺は五里霧中で暗中模索していたのだが、ふとその視界に何かが入り込んできたのが見えた。
「……ん?」
左前方十一時の方角――モンスターの左斜め後方にそれは突如として現れた。モンスターに気を配りつつその『何か』に視線を向ける。
おや、おかしい。裸眼族としてそれなりの自負はあるが、とうとう視力が悪くなってしまったのだろうか。あれ、どうしてもアベルに見える。アベルはルカと一緒に逃げたはずで、あんな所にいるはずがない。しかし『何か』は徐々に近付いてくる。そして腰からモンスターの牙より短い剣を抜くとスッと構えた。
クソ、揺るぎねぇ。ありゃ――。
「アベルッ!」
俺は大声で名前を呼んだ。ところがアベルの耳には届いていないようだった。アベルは起こしていた剣を寝かして構える。何をするつもりなのか――。
と、その瞬間――。
「嘘だろ――オイッ!」
アベルは剣を構えたままモンスターに向かって走り出したのだ。俺は止めさせようと走り出したが、意外と足が速かったアベルはみるみるうちにモンスターとの距離を縮めていく。咄嗟に「アベル!」ともう一度叫んでいたが遅かった。アベルは深々と剣をモンスターに突き立てていた。
しかしアベルの剣はあんな大型のモンスターを刺殺できる程の殺傷能力を持ち合わせているはずもなく、ただモンスターの気を引くだけに終わった。
「ブォ?」
モンスターはゆっくり頭を右に旋回させる。そしてアベルを視界に捕らえた。アベルもようやくそこで我にでも帰ったのか、ハッとした表情で剣から手を離す。
「逃げろッ!」
「せ、先生……」
アベルは怯えた瞳で俺を見た。モンスターが標的をアベルに変更し地を掻き始める。俺は思うより早く駆け出していた。
モンスターが前肢に力を溜め体勢を低くする。そして前肢に溜めた力を全身に巡らせたのがわかった。
来る――幾度となくあの突進を目にしていたせいかいつ、どのタイミングで飛んでくるかわかる。もう時間はなかった。
刹那、モンスターの体が前のめりになる。俺は両脚に渾身の力を込め飛んだ――。
「先生!」
アベルの声が聞こえる。俺はアベルを力一杯突き飛ばした。そして入れ替わるようにして俺の体がモンスターの目の前に晒されることになった。
「ブォーーーッ!」
俺は再び吹き飛ばされる。アベルが此方に向かって何か叫んでいたがよく聞こえなかった。