続・みんなでお仕事⑧
モンスターは向き直ると血走った双眸で俺を睨み付けてきた。何故そこまでお怒りになられているか皆目見当も付かないが、これでルカ達への追撃の可能性は無くなったと見ていいだろう。となれば俺もこんな化物じみたモンスターと戦う必要は無い。
ただ、強いて言うならこのモンスターが俺を逃がしてくれるかどうかが問題であり、皆まで言わずとも結論はわかっていた。
「せめて言葉が通じればな……」
途方もない願いを呟きつつ俺は臨戦体勢に入った。それを見てモンスターは再び地を掻き始める。
また突進か――芸の無い奴だ。と俺が高を括っていると案の定モンスターは再び突進してきた。今度は初動から見えていたので避けること自体難しいことではなかった。まぁあとは反撃の糸口を掴めれば申し分無い。それから二度三度、俺は闘牛士よろしくモンスターの攻撃をかわしその機会を待った。モンスターはモンスターで、攻撃の度にヒラヒラとかわされフラストレーションが溜まっているように見えた。
「よし――」
凡そモンスターの攻撃パターンは読めた。やはり攻撃のチャンスはモンスターの突進が空振りに終わった直後だろう。こういう時にふと思うのが――肉弾戦をこなせたら戦闘ももっと楽になるだろうに、という無い物ねだりだったりする。
まぁそれは置いといて、何度目かのモンスターの攻撃――俺は魔方陣を掌に描きつつそれをかわすと、無防備になったモンスターの後ろ足に向かって魔法を放った。
「フレイムバウンドッ!」
火球は直進しモンスターに直撃――したはずだった。
「え!?」
一瞬自分の目を疑った。というか目の前の光景が信じられなかった。そしてその分反応が遅れ、そもそもそれが自分で放ったものだと理解するのに数瞬要してしまったのもあり、結果として俺は自ら放った魔法をモロに食らうこととなった。
火球の熱が容赦無く俺を貪り、全身にダメージが蓄積される。一体何が――混乱する頭を必死に整理するがなかなか纏まらない。そうこうしている内にモンスターが再び突進してきた。
泣きっ面に蜂とはまさにこのこと。混乱に乗じての一撃に俺は避けることが叶わず、その凶悪な攻撃を全身で受け止めることになった。あんなに注意していた攻撃を結局食らってしまったのだ。久し振りに吹き飛ばされた俺の体は空中で幾度となく回転し、骨が軋み、折れる音を耳が捕らえた。
「グ……ハ……」
この攻撃を受けて呼吸が出来るかどうか――否、生きられるかどうか怪しかった。地面に叩きつけられ、その衝撃で、これもまた久し振りだが――吐血した。しかし何とか生きているみたいだ。
俺は残された力を回復活動に注ぐ。しかしダメージが酷い分いつもよりその速度は遅かった。そうしている間にも新たな攻撃が迫って来ていた。
「クソッ」
仕方なく回復もそこそこに回避行動に移る。回避後は再び全快に至るまで回復を続けた。そして次の攻撃が来る頃には体は大分楽になっていた。
さて、どうしようか――体力の回復と共に思考能力が戻ってきたようだ。とりあえず先程の出来事を思い返してみよう。
あまりに一瞬すぎてよくわからなかったが、あれは魔法が跳ね返ってきたと考えるのが妥当だろう。では何故俺の魔法は反射したのか――。
「ッとぉ!」
危ない危ない。考えてたら反応が遅れてしまった。
で、どこまで――そうそう。何故反射したかだ。思い付く理由としては、単純にあの毛皮が炎弾の『火』という属性に耐性があった、というのが一つ。そしてもう一つは――こちらはあまり考えたくないが――あの毛皮がそもそも魔法を弾く性能をもっている、というものだった。
もしそれが事実であったらあのメイジキラー戦以上の苦戦は必至だろう。だがいつまでもうだうだ言っていられない。俺は真相究明のため覚悟を決めると今一度魔方陣を掌に描いた。