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現実逃避も楽じゃない④

 

 俺は本を地面に叩きつけたい衝動に駆られたが大人の理性をもってグッと堪えた。しかしどうしたものか。これでは何か分からないことがあっても調べられないではないか。

「おい~……何とか言ってくれよぅ」

 思わず切なる願いが口から零れる。端から見れば本に話し掛ける変人だ。ホント誰も周りにいなくて良かった。忠犬の前だったら確実に職質を受けていたことだろう。

 それから何度か声を掛けた――この時点で思わず自分のアホさ加減に吹いてしまった――が全く反応は無い。俺は諦めて先に進むことにした。しかしその重たい腰を上げた時だった――。

「うるさいなぁ……」

 んん? 何か聞こえたぞ?

「少しは黙ってらんないかな~」

 やはり。最初はまさかと思ったがこの本から声が聞こえる。

「ったく目が覚めちゃったじゃない」

 言って本は俺の手から離れるとふわふわと宙を漂った。そしてしばらくすると強い光を放ち本のシルエットがみるみるうちに人のそれへと変わっていった。光は次第に弱くなっていき、最後にフッと消えると中から一人の女の子が現れた。いや、体の凹凸からすると女性と言った方が適切かもしれない。

 彼女の身長はおよそ三十センチ程で背中からは羽が生えており、真っ白なローブを纏っている。まさかとは思うがこれが妖精さんというものではなかろうか。とりあえずコンタクトを取ってみようと思う。

「や、やぁ」

「ははぁ~ん、アンタね? さっきから一人言が多かったのは」

 いや、一人言のつもりは無かったが。

「にしてもアンタ汗だくじゃない」

「あ、あぁこれはさっきモンスターと戦ってたからね」

「まさか……その格好で戦ってたの?」

 妖精さんが物凄い顔で俺のスーツを凝視している。そんなに珍しい物なのだろうか。とりあえず頷いて答えた。

「マジか。よくそんな防御力のない服で戦えたわね」

 何ですと?

「そんなんじゃスライムにすら殺されかねないし。もぉ、こんなんだったらさっさと私起こしなさいよね?」

 幾度となく声を掛けたことは今は黙っておこう。しかし自前のスーツがまさか防御力ゼロだったなんて。最初に装備品の確認をしたが既にそこから大きな過ちが生まれていたとは正直驚きである。

「お兄さん、ちょっと立って」

「え? 何で?」

「私がスンゴいアイテムプレゼントしてあげるって言ってんの。わかったらさっさと立ちなさい」

「は、はぁ」

 マジか。こんなことになるならさっさと起こしておくべきだった。俺は後悔の念に駆られながらゆっくりと立ち上がった。

 妖精さんは俺の周りをクルクル回る。そして一周すると真ん前に立ち――正確には浮いているが――俺に両手を向けると聞いたことのない言葉を話し始めた。するとどうだろう。先程妖精さんが現れた時の様に、今度は俺の服が光出したのだ。

 光はゆっくりと形を変え始め、まるで生き物の様に動いている。一方、妖精さんの不可解な言葉はというと今は収まっていた。しかし今度は眉間に皺を寄せてあーでもないこーでもない、とぶつくさ一人で喋っている。どうやらデザインを考えている様だ。俺は妖精さんのセンスに期待しつつ待つことにした。


「これだ!」

 散々考えたあげくようやくデザインが決まったようだった。会心の笑みが彼女の顔から溢れ出ている。これは期待が持てそうだ。

「目を瞑って」

「は、はい」

 いよいよだ。なんだかドキドキしてきた。

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