続・みんなでお仕事⑥
二日目は朝から快調だった。いや、決して便通の話ではなく、もちろん旅路の話である。時折地図で行くべき道を確認しつつ、確実に目的地へ向けて歩を進めていた。
そして二日目ともなると子供達もモンスターと戦うことに抵抗を感じなくなってきたようで、最後の絞めもしっかりと、着実に実戦経験を積み重ねていった。
更に言えば子供達がちゃんとペースを守ってくれたおかげで、夜になっても月明かりを頼りに距離を稼ぐこができた。これも三人が素直に俺の言ったことを守ってくれたからなのかもしれない。
そんなこんなで三日目――。
今日も朝から快晴で気持ちがいい。昨日頑張ったお陰で今日は楽できそうだ。
ギルドノートの地図で現在地を調べると貿易都市ミルメースまであと少しといった所だった。ふむ、この感じならおそらく今日中には到着できるだろう。俺達は荷物を片付けて出発した。
歩き始めてすぐ、フィリアが道端の小石を蹴りながら問いかけてきた。
「先生あとどんぐらい~?」
昨晩ぐらいから彼女がよく口にする台詞だ。
「そうだな~、あともうちょっとかな」
「ちょっとって?」
「う~ん……そうだなぁ」
と、俺がフィリアの質問をのらりくらりかわしている時だった。
「先生あれ――」
突然アベルが遠くを指差した。何だろうとその指の先を見てみると黒い塊の様なものがあった。
「何だろう……」
ここからじゃ塊以外の情報が得られない。目を細めてみてもそれは変わらなかった。まぁ一応用心しておくに越したことはない。俺は黒い塊に注意を払いつつミルメースを目指した。
しばらくしてその塊が近付いてくると俺は違和感を覚えた。俺としては最初岩か何かかと思っていたのだが――どう見てもあれは無機質なものではない。表明の黒色は間違いなく毛の色だし……。やはりモンスターなのだろうか。
俺は当然の疑問を胸に抱きつつ歩を進めた。そして、後悔した。何故――迂回しなかったのかと。これは下手な興味は身を滅ぼす――というその良い例だと思った。
俺達が近付くとその塊は突然動き出した。そしてしばらくの間蠢いているといきなり――例えるならば弾けるようにして、黒い塊から頭と四肢が姿を現したのだ。もしかしたら体を丸めていたのだろうか……。
というかそんなことより――。
「何だ……こいつ」
デカすぎる。突如として姿を現した――いや、見えてはいたか――モンスターは猪の様な姿で四足歩行であるにも拘わらず、前肢から頭のてっぺんまでおそらく二メートル以上はあるかもしれなかった。
そしてその大きさもさることながら、口の両端からニョキッと――いや、そんな生易しそうな生え方ではない。天を射ぬかんばかりに生えている牙はアベルの剣よりも長く、それだけで既に脅威だった。
「ちょ、どうすんのよ!」
ルカが慌てた様子で声をかけてきた。しかし俺とて未だ新米の域を出ない人間である。ルカには申し訳ないがこの様な事態に直面した場合のマニュアルは未完成なのだ。そのため必然的に口から零れるのは――。
「お、俺だってわかんねぇよ」
しかし子供達に要らぬ心配を与えぬよう小声で答えた。
「せ、先生ぇ……」
珍しくフィリアが怯えている。アベルもエルリックも同じだった。気付けば皆俺の足にしがみついていた。
今この子達が頼れる人間は俺しかいない。しかし俺にはそれがいなかった。だから俺がしっかりするしかない。フィント司教に誓った『死んでも守る』という約束を果たす時が早くも訪れてしまったようだった。