続・みんなでお仕事
ラビリアを出発して二時間――途中休みを交えつつミルメースを目指していた。
暖かい陽射しは一面に広がる大草原の草花を照らし、その遮るものも無くキラキラと光る姿は緑の大海原である。
子供達はというと、二時間も歩いているにも拘らず未だに疲れを知らないようだった。見たことの無い花を見つければ一目散に駆けつけ、しゃがみこんでは香りを楽しむ。しかしそんなことなど朝飯前で、どんな匂いだったかを報告するため、俺の所までわざわざ戻ってくるのだ。
まったく、あんな小さな体のどこにそんな体力があるのか――驚くばかりである。
しかしルカが言うにはあの子達は生まれて直ぐに教会に預けられ、以来街の外に出たことが無かったというのだ。
ならばあそこまではしゃぐ理由もわらなくはなかった。きっとあの子達にとって、今この瞬間でさえ未知との遭遇の連続なのだろう。三人を預かる保護者としてそれは喜ばしいことだった。ただ一つ懸念が有るとすればその体力がミルメースまでもってくれるかどうかである。
「気を付けろよー」
とりあえずは言っておかないと――たぶん聞いてないだろうけど。
大草原はどこまでもなだらかで、時折小高い丘陵が有るくらいだが、今登っているそれは珍しく急だった。軽い登山をしている気分になる。しかしここに来ても子供達のハイテンションは変わらない。気付けばもう頂上付近だった。
「先生早くー!」
フィリアがこっちを向いて叫んでいる。俺は片手を挙げて答えた。息を上げながら一歩一歩を踏み締める。そしてようやく俺が丘陵の中腹に到達した時だった――。
「先生!」
今度はエルリックだった。何事かと顔を上げる。
「どしたー?」
「モンスター!」
何だって? 俺は顔をしかめながら残りの半分を駆け上がった。
丘陵の頂上は風が気持ち良かった。汗ばんだ顔が冷めていくのがわかる。視界は一気に開け、遥か彼方にまで広がる大草原を一望できた。況んや絶景である。
しかし眼下に視線を落とすと丘陵の坂を下りた先に、この絶景とは不釣り合いなモンスターの姿があった。
あれか、と俺は目を凝らしてモンスターの種類を判別する。ところがよくよく見るとそれは見慣れた姿だったことに気付いた。間違いない、あれはゴブリンだ。何となく心配して損した気分になったが、思い返してみれば島で遭遇して以来の再開である。
「ははぁ~、久しぶりだな~」
「先生知ってるの?」
「アベルは知らないか」
「うん」
アベルは不安そうな顔をしてゴブリンに視線を落とした。
ふむ、あの程度なら――もしかしたらいよいよこの子達の実戦デビューの時が来たのかもしれない。数も一体だし、力を持って生まれたという三人の実力を早い時点で把握しておく必要もあるだろう。
というわけで――。
「はい注目!」
アベル、エルリック、フィリア、六個の瞳が此方を向く。
「いいかい皆、あれはゴブリンというモンスターで、あの手に持ってる棒で攻撃してくるモンスターだ。といってもあの棒だけに気を付ければ特に危ないことはない。だからここで、一回戦ってみよう!」
シーンと静まり返る子供達。あれ? おかしい。何となく予想とは違った。テンションが上がると思っていたのだが、意外にも落ちているようだった。
「どした?」
返事は無い。そうか、さてはビビったな。
まぁこんな年端も行かない子供達に無理強いをしているのはわかっているが、それでもこれからはそうも言っていられないのだ。
「大丈夫。先生がついてるから」
今俺が言える最大限の応援だった。するとそんな思いが通じたのかフィリアが力強く頷いてくれた。
「私……頑張る!」