みんなでお仕事⑤
しばらくしてクロトが荷物を携え玄関に戻ってきた。荷物は小脇に抱えられそうなくらいの大きさだ。
「これじゃよ」
言ってクロトはぞんざいな口調とは裏腹に、荷物を大事そうに手渡してきた。布に覆われたそれは見掛けによらず軽い。
「確かにお引き受けしました」
俺はぎこちないながらも営業スマイルを忘れずにこやかに言った。しかしそんな俺をクロトはまだじっと見つめている。まだ何かあるのだろうか――。
「中身……」
「はい?」
中身がどうしたのだろうか。
「見ちゃいかんぞ」
「も、もちろんです!」
何を言われるかと思いきや、まさかそんな事を言われるとは。こういった類いの仕事において、中身を見ることは依頼主の信頼を裏切ることと同じだ。と何かのゲームにあった気がする。
まぁ子供が一緒ということを考えればそういう心配もあるかもしれない。しかしその心配は申し訳ないが心外と言わざるを得ない。
ところが――。
「……頼んだぞぃ」
「え?」
思いがけないお言葉に失礼だが、聞き返してしまった。しかしクロトも少し頬を赤らめ、それ以上は何も言わなかった。
ただ最後に――。
「気を付けてな」
と、捨て台詞よろしく言ってクロトはパタンと扉を閉めた。
クロトと対面していた時間はほんの僅か、数分程度である。しかも端から見れば門前払いを受けて玄関に立ち尽くしている様に見えなくもない。が、俺の心は何とも優しい温かさで満たされていた。これもギャップという目に見えない魔法の仕業なのだろうか。
だとしたら――素敵やん?
まるでどこぞの大御所芸人が口にしそうな台詞を心の中で呟いていると――。
「先生先生!」
と、フィリア。何というか――自分の世界に半身浴していたらいきなりお湯を抜かれてしまったかの様な感覚を覚えた。しかしそれが現実というものであり、俺はそれを受け止めなければならない。
「フゥ……何だい?」
「ねぇねぇ! 私にも持たせて!」
俺が持つ荷物に目を輝かせてフィリアは言う。
そう言えば昔俺もこんなことを親に言っていたような気がする。しかしフィリアには悪いがこれは仕事だ。依頼主が大切に扱っていた物を、そう易々と触らせるわけにはいかなかった。
「ハハハ、また後でな」
「ぇええ? ケチ~」
「はいはい、ごめんな。ほら、ミルメースに行くぞ」
「はーい」
三人の返事が綺麗に重なった。
武器を買い、道具を揃え、旅のついでに小銭を稼ぐ依頼を受ける。ラビリアでやらなければならないことは一通り終わった。一応ルカにも他にやることはないか聞いてみたが特に無い、とのことだった。これで心置き無く出発できる。
俺達は街の入り口にある巨大な門をくぐり、昨日通せんぼをしてきた門番に挨拶を済ますと再び大草原に、その記念すべき第一歩を踏み入れた。
「うわぁ!」
「すごーーーーい! ひろーーーーい!」
「緑だねー!」
三人思い思いの台詞を口にする。ただ、エルリックの「緑だねー」には思わず笑ってしまった。
「先生早くーー!」
フィリアが大声で俺を呼ぶ。それを聞いてルカが「呼ばれてるよ」と茶化してきた。
「離れるなよ!」
俺は小走りで三人を追いかける。
斯くして俺達の長い長い旅は騒がしくも微笑ましい、俺にとっては最高のスタートを切ったのだった。