みんなでお仕事④
仕事の内容としては然して難しそうではない。やるべき事も明確だし――うん、いいと思う。
「わかりました。慎んでお受けします」
「ハハハ、んな固い言い方しないでいいわよ。ま、初仕事頑張ってちょうだい。基本的に依頼は掲示板にこういう紙――依頼書って言うんだけど――が貼り出されているから自分に合った仕事を選ぶといいわ」
マヌラさんがカウンター近くにある掲示板を指差す。つまりあの掲示板に貼られている紙は全て依頼ということか。
「まぁ大体のことは依頼書に書かれているからわかると思うけど、もしわかんないことがあったら遠慮なく質問しなさい。あ、それとね、仕事の報告だけど、今回の仕事で言えば荷物の受け渡しが終わったらこの依頼書に受取人からサインもらって、それを近くのギルドに報告すればいいから。そしたら報酬を貰えるわ。あ、でも時折報告するギルドが指定されてる依頼もあるから気を付けてね」
「――なるほど」
「んで、あとは……と。はい、コレ」
言ってマヌラさんは手帳のようなものを俺に手渡した。何だろう、と中を見てみると地図、モンスターの情報、メモ帳そしてポイントカードのようなもの、その他諸々便利そうなものが多々あった。
「……これは?」
「それはギルドノートって言って旅する上で色々役に立つギルド特製の手帳よ。有意義に使ってちょうだい。で――そうそう、それと最後にもう一つ」
マヌラさんが人指し指をビシッと立てた。そして続ける。
「後ろの方にポイントカードみたいなのがあるでしょ?」
「はい」
「それ、仕事をこなすとギルドポイントってのが貰えてそこに記録されるの。ある程度貯まったら特典が貰えるから頑張って貯めてね」
「……わかりました。なんか色々教えてもらってすいません」
「いいのよ。貴方みたいな人をサポートするのもこっちの仕事なんだから」
そう言うとマヌラさんは口を大きく開けてガハハと笑った。その笑い方は実にイメージ通りだとは口が裂けても言えない。
さて、依頼の確認といこう。依頼主はラビリアに住むクロトと言う人で、宛先はミルメースに住むスリフトという人らしい。荷物はクロトさんから直接引き取る予定になっているようだ。
「じゃ、行ってきます」
「気を付けてね」
「はい」
俺は小さく会釈をしてギルドを後にした。マヌラさんは手を振りながらガハハと笑って俺達を見送ってくれた。
ギルドを出るとクロトなる人物の住所を確認する。しかし俺が知るわけもなく――ということでルカに聞いてみた。
「ほいほい、あそこね」
さすがルカさん、頼りになる。
目的のクロト宅はギルドの近くだった。小さな二階建ての家だ。
俺は玄関に立つとノックする。乾いた木の音と共に「はい」という返事が聞こえてきた。そして間も無く扉が開く。
「はいはい、どち――」
家から出てきたのは犬の様な、というかまさに犬の顔をした白髪頭の老人だった。彼は俺の顔を見るなり眉間に皺を寄せてあからさまに訝しんでいた。
「あ、私達依頼を受けてきた者ですが、クロトさんはご在宅でしょうか」
「クロトは儂じゃが……あんたらが引き受けたんか?」
「え、えぇ」
クロトは俺や子供達をしげしげと見つめる。まぁ取り合わせが珍しいことは認めるが……。
「ふん、まぁええわ。ちょいと待っとれ」
「は、はぁ……」
随分と偏屈そうな爺さんだと思った。しかしこれから色々と依頼を受ければああいう人と遭遇することも珍しくないだろう。これも一つの経験として割り切るのが一番だ。
「先生」
「ん? どうしたんだアベル」
「あのおじいさんなんか寂しそうだった」
「あ、あぁ……」
寂しそう、か。そんなこと思いもしなかったが、子供の感性は荒んだ大人のそれとは違って鋭敏で純粋なのかもしれない。