みんなでお仕事③
「ほら、しゃんとして! ここじゃ威厳も大事なんだから」
そう言うとルカは奥へさっさと行ってしまった。こんなとこで置いてきぼりになること、それは猛獣の檻に放り込まれる様なものだ。俺は子供達の手を握ると足早にその後を追った。
途中立ち話をしている人達が此方を物珍しそうに見てきたが、なるべく目を合わさないように下を向いて歩いた。
それにしてもこの廊下は長い。建物の外観からは全くわからなかったが、一体いつまで続くのだろうか。と、俺が早歩きに少し息が上がってきた時だった――。
「うわぁ」
背後から驚きの声。その声の主は以外にもアベルだった。何事かと顔を上げてみる。
「おぉ……」
アベルが驚いてしまった気持ちがわかった。入り口から長い廊下を渡るのに先ず入って直ぐの角を曲がらないといけないのだが――そのせいで、ここまで歩いてこないとわからなかったのだ。
ようやく判明したギルドの全容――それは一言で言い表せない、一種独特の雰囲気を醸し出していた。
種族関係無く多くの人で賑わうギルド内部はドーム型の吹き抜け天井で二階建て。二階の壁は全面ガラス張りで廊下とは逆にとても明るかった。一階には受付らしきカウンターと、紙が沢山貼られた掲示板がある。二階はテーブルや椅子が置かれており、ギルドメンバーの情報交換の場となっているようだった。そしてその二階へ上がる階段は壁に沿って螺旋状に備えられていた。
「すごいねぇ……」
エルリックも目を見開いて辺りを見渡す。隣のフィリアも同じように驚いていた。
「ショウ! こっちこっち!」
ルカが俺を呼ぶ。彼女はいつの間にか受付らしきカウンターに腰掛けていた。相変わらず一人で先に行く奴だ。しかし、ギルドの雰囲気に当てられ興奮気味の俺はそんなことを気にする間も無く口を開いた。
「ってか凄いなココ! 入り口からじゃわかんないよ! いやぁ、ホントに凄いわ」
と、そんな俺の姿に話し掛けてくる声があった。
「あら、そう言ってもらえて嬉しいわ。人間族のお兄さん」
「え?」
俺はふと声の聞こえた方を向いた。そこにはカウンター越しに此方を見ている一人の女性がいた。外見はずんぐりとしていて耳が大きくだんごっ鼻である。
「誉めてくれてありがとう、お兄さん」
「えーっとぉ……」
何処の何方かは存じ上げないが、どうやら此方のマダムは俺に声を描けているようだ。しかし何と反応したら良いのか……と俺が戸惑っているとそれを見かねたのかルカが助け船を出してくれた。
「この人はギルド・ラビリア支部の受付兼オーナー、ドワーフのマヌラさん」
「あ、あーあ。そう……あ、初めまして」
「初めまして。貴方が新しい先生でいいのかしら?」
「ええ、一応」
マヌラさんは品定めするかのように俺を見た。正直気持ちの良いものではない。
時間にして数十秒、マヌラさんは一枚の紙切れを俺の前に出し口を開いた。
「……いいでしょ。これに名前書いて」
「は、はい」
俺は言われた通り自分の名前を書く。それを見るとマヌラさんは紙を自分の手元に戻す。そしてバンッと大きな音を立ててスタンプを押した。
「おめでとうショウ。これで貴方もギルドのメンバーよ」
「え? あの、こんな簡単で――」
「いいのよ。本来は試験があるんだけど、貴方みたいな先生だけは試験免除になってるのよ」
「へぇ……」
なんか得した気分だ。
「で、先生達はこれからミルメースに向かうのよね?」
「はい」
「じゃあ……そうね、手始めにこれなんかどう?」
言ってマヌラさんは先程とは違う一枚の紙切れを見せてくれた。そこには仕事の内容が書かれていた。ざっと読む限り仕事の内容は荷物の運送のようだった。