みんなでお仕事
妖精専用の生活空間を抜けると、俺と子供達は元の大きさに戻った。たった一日だというのに、妖精の大きさのままのルカは物凄く小さく見えた。
それはさておき、当面の目的はこのラビリアより大きな街――貿易都市とも呼ばれるミルメースへ行くことだ。司教の話ではミルメースはラビリアの北、徒歩で二日といった距離らしい。子供達の体力を考慮して三日くらいは見積もっておく。
ともあれその道中はモンスターと戦うこともあるだろう。それを考えると子供達にも護身用の武器でも買ってあげたい。幸いシスターから心許りのお金を頂戴している。俺達は街の武器屋――といってもラビリアに武器専門店が無いため武器を扱うよろず屋へと向かった。
よろず屋は広場に面した、お店としてはおそらく最高の立地条件が揃っているであろう場所にあった。そのお陰か店先は多くの人で賑わっている。俺達はその人混みを掻き分け店内に入った。
店内も多くの人で賑わっていたが、何より商品の物珍しさ――あくまで俺基準だが――に驚かされた。右を向けば『本日薬草二割引!』の貼り紙が、左を向けばゴツい斧が飾られていたりする。この雰囲気、我々の世界で言えばデパートというよりスーパーに近い感じがする。
「へぇ~、面白いな」
「まぁ、この街でちゃんと買い物できるのってこの店ぐらいだからね。品揃えも申し分無いよ。しかしここも変わらないわね~」
ルカは懐かしそうに店内を眺めた。俺はというと年甲斐もなく眼を輝かせていたわけだが、それ以上に眼を輝かせていた者がいた。
「うわ、ナニコレ!」
「美味しそうなおかしだ~」
「ふ、二人とも静かにしなきゃ……」
「なによ~アベルだって何見て――」
さすが好奇心の塊というべきか――俺にもあんな時期があったことを思い出した。
とまぁ、何となくセンチメンタルな雰囲気が出てきたところで、とりあえず俺はエルリックが持っていたおかしを棚へ戻す。そして目的の武器コーナーへと向かった。
武器コーナーは店の奥まった場所にあった。そこは男心をくすぐる、なんとも厳つい雰囲気に満ちた場所だった。様々な種類の武器が所狭しと陳列されている。どこから見ていけばいいか目移りしてしまった。自分のことながらキョロキョロのしすぎで完全に挙動不審である。
と、そんな俺の姿が気になったのか、店員らしき男性が声を掛けてきた。
「お兄さん、何かお探しで?」
「ええ。この子達に護身用の武器を、と……」
「護身用?」
「いや、まぁ――これからこの子達とミルメースへ行くんで……」
そう言うと店員は言葉を失い、驚いた顔で俺と子供達を見た。
「あの……どうかされました?」
「え? いや、ハハハ。こいつは驚きだ。本気かい?」
「はい」
「ふーん……そうかい。だったらちょいと待ってな――」
言って店員はバックルームに消えていった。その代わり遠くで何かが崩れる音が時折聞こえてくるようになった。一体何をしているのだろうか。
しばらくして店員が戻ってきた。手には明らかに小振りな武器がいくつか握られている。
「お待たせぃ兄さん。こん中から好きなの選びな」
「選ぶって――これは?」
「こいつらは昔作られたもんだ。今じゃ誰も買ってくれないシロモンだよ――だから、と言っちゃぁなんだが格安でご提供させていただくぜ」
「いいんですか!?」
俺の問いに店員は「もちろん」と威勢よく返事をした。ではお言葉に甘えて……。
「ほら、好きなの選びな」
俺はアベル達に好き武器を選ばせた。そしてしばらくすると各自自分の好みに合った武器を俺に見せてきた。アベルはショートソード。エルリックは樫の杖。そしてフィリアは自動弓――なかなか遠近バランスの取れた武器選択に俺は思わず感心してしまった。