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出会い⑨

 

 素晴らしく美味しいレモンパイだった。レモンパイ自体初めてだったが、初めてがこれで本当に良かったと思う。

 おやつを食べ終わるとシスターが温かい紅茶を淹れてくれた。今度はシスターも交えてお話を――と思ったその時だった。

 コンコン――と扉の音。また誰か来たのだろうか。俺が席を立とうとするとシスターがそれを制し、代わりに自らが出てくれた。

 子供達含め俺も扉に視線をやる。新たな来訪者は誰か……シスターが扉を開ける。そこに立っていたのは――。

「あら、司教様」

 と――。

「……ルカさん」

 新たな来訪者は子供達から先生と呼ばれるあのフィント司教と、試合後のボクサーを彷彿とさせる程目を腫らしたルカだった。どうやらこってり絞られたようだ。

「おや、おやつの時間でしたか」

「え、ええ。お客様のお言葉に甘えてこちらで頂いてました」

「そうでしたか」

 そう言うとフィント司教はルカを連れて部屋に入ってきた。そして俺の前に立つ。

 座っていた俺は慌てて立とうとしたがフィント司教に片手で制された。俺は一瞬戸惑ったが再び席に着く形に収まった。それを見て司教が口を開く。

「お客人――いえ、弐鷹さん。詳しい話はルカから聞かせてもらいました。貴方が新しく赴任された先生、ということでよろしいですね?」

「へ? あ、と――は、はい」

 いきなりの発言に思わず動揺にも似た反応をしてしまった。

「そうですか――アベル、エルリック、フィリア。此方へ」

 フィント司教は三人を自分の前に並ばせた。そして回れ右。結果、俺と向かい合う形になる。

「ど、どうされたんですか?」

「弐鷹さん。この子達をよろしくお願いいたします」

「…………はい?」

 突然何を言い出すのか。この子達をよろしくって――ま、まさか!

 この全体的な雰囲気のせいか、一瞬にして全てが頭の中で繋がった。

「あの……もしかして」

「はい。生徒はこの子達です」

 やはり。というか紹介される前から仲良くなれるなんて、俺としては少なからず運命を感じてしまった。乙女心剥き出しである。

 子供達は驚きと戸惑い、というより未だに状況を理解できていないようだった。それもそうだろう――何せ今の今まで仲良くお話していた相手が、たった今から自分達の教師になる、なんてこの時分の子供達に直ぐにでも理解しろという方が酷だ。

「では弐鷹さん、色々とやらなければならないので場所を変えますがよろしいですか?」

「あ、はい。もちろん」

「ルカ、貴女も付いてきなさい」

 こうして俺とルカは司教に連れられ、皆の居る部屋を後にした。

 部屋を出るとやって来た時とは異なる道を進んでいく。窓が無いため昼間だというのに薄暗い。これで引率者がフィント司教様でなかったら完全に逃げ出している雰囲気だ。

「ここです」

 言って司教が一つの部屋の前で足を止めた。

「ここは……」

「私の部屋になります。詳しいお話は中に入ってからにしましょう」

 司教は扉を開き、俺に「どうぞ」と促した。そしてその後にルカが付いてくる。部屋に入るとルカが少し落ち着かない様子を見せた。もしかしたらここでこってり絞られたのかもしれない。

 部屋の中央には四人掛けのテーブルが備えられており、小さな花瓶が添えられている。壁には見たことも無い魔方陣が描かれていた。あとはタンスやベッドと言った最低限の生活用品があるだけだ。

「狭いところで申し訳ありませんが、どうぞお座り下さい」

「失礼します」

 俺とルカはとりあえずテーブルの椅子に腰掛けた。それから程無く司教は何やら書類を持って俺の真向かいに座った。

「改めまして――私はフィント=ベルウェザー。クローレンツ教会の司教を務めさせていただいています。本日は遠いこの地までようこそいらして下さいました。教会を代表して歓迎申し上げます。弐鷹さん」

 と、フィント司教。出会ったタイミングがタイミングなだけに改めての自己紹介も頷ける。俺も司教に倣って自己紹介をした。

 はて、今日何回目の自己紹介だろうか――ふと思い起こしてみる。が、まぁそう思うということは今日一日で随分と色々な人に出会ったということなんだろうと思った。


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