出会い⑧
初めての返事を聞いた後も俺はアベルと話をした。優しく、声は張り上げない。やがて彼は俺にゆっくりではあるが、心を開いてくれた。ここで改めて自己紹介をしてみる。
「俺の名前は弐鷹翔。よろしく」
アベルは数瞬、何か考えるように俯くが俺の右手を握り握手をしてくれた。
「……アベル、です」
「うん。よろしく」
俺は彼の小さな手をギュッと握り返した。
と、その時――。
「ねぇねぇ、アベルばっかズルい~。私にも何かお話して~」
フィリアだった。そう言えばさっきからアベルとしか話していない。フィリアはそれを羨ましく思ったのか、俺の腕に掴まり気を引こうと駄々を捏ねる。
「ハハハ、ごめんごめん」
と、フィリアを宥めつつとりあえずテーブルに移動した。
テーブルに着くと三人の視線が俺に向けられる。フィリアだけでなく、アベルもエルリックも心なしか目を輝かせているようだ。
そんなピュアな瞳で見つめられては……まぁ期待されればそれに応えるのが俺。とりあえず自分が生きてきた世界、つまりは日本のお話をしてみた。ただここでは冗長になると思われるので主だった部分は割愛。
しかし全てを割愛しては三人の可愛らしさが伝わらないと思うので少しながら情報開示させて頂くと、三人が最も興味を示したのが俺の好物『たこ焼き』についてだった。
うちの地元の商店街に某有名たこ焼きチェーン店があるのでよく利用させてもらっていたのだが、サンクにはたこ焼きなどあるはずもなく、しかし俺がたこ焼きの美味さを熱く語るので興味が湧いたのかもしれない。
それはそうと、俺の腹時計で一時間程だろうか――それぐらいの時間が経った頃、扉をノックする音が聞こえてきた。
「で――って誰だ?」
俺は話を中断して席を立った。そして扉を開ける。そこに立っていたのはシスターだった。その手にはポットとお皿がある。
「どうかしました?」
「おやつの時間になりましたので、お客様にもと思いまして――いかがですか?」
「あ、もしかするとレモンパイですか?」
「え!? ど、どうしてご存知なんですか?」
「実は先程教えてもらいまして――」
俺は半身ずらしてシスターに部屋の中をお見せする。テーブルには既におやつモードに入っている三人の姿があった。
「あ! あなた達此処にいたのね! お客様の邪魔をしちゃ――」
「レモンパイ! レモンパイ! レモンパイ!」
聞く耳持たない子供にシスターはガックリと項垂れる。
「私達もここで食べる!」
と、フィリア。然り気無くアベルもエルリックも巻き込んだ言い方だ。
「ちょ、何を言ってるの。ダメです。さ、三人共帰りますよ」
フィリアとエルリックが「えー」とブーイング。
「あ、僕だったら別に構いませんよ。一人で食べるより皆で食べた方がより美味しいですし」
「そ、そうですか?」
「ええ」
「本当にすいません――じゃ、迷惑にならないようにね」
言ってシスターは部屋に入るとテーブルに向かう。俺は扉を閉めると席に戻った。
「良いニオーイ!」
エルリックが鼻をひくつかせ恍惚とした表情を見せる。レモンパイでその顔だとチェリーパイの時はどうなってしまうのか。そんなことを思っていたらシスターが俺の分を取り分けてくれた。
三人にも行き渡ったようなのでフォークを片手に――。
「いただきますッ」
と、皆で合唱する。対してシスターは笑顔で――。
「召し上がれ」
何とも微笑ましいやり取りではないか。俺は子供達の顔を眺めつつレモンパイに手をつけた。サクッという音と共にレモンの爽やかな香りが立ち上る。そして口へ――。
「…………ウマッ」