出会い⑦
何をやってんだ――自分で自分のアホさ加減をを責め立てる。しかしよく考えれば、部屋に招いてからはノープランだったわけだし、結局はこうなっていた気がする。ってそんなことを言っている場合じゃない。何とかしてこの場を取り繕わなければ……。
「や、やぁ」
とりあえず挨拶、兼好い人アピール。だが子供達の表情は晴れない。警戒心剥き出しである。特に恐がりさんに関しては完全に怯えていた。ただマイペースな子だけは……ポケーッとこっちを見ていた。彼は眼鏡をかけているが、その眼鏡には何が映っているのだろうか。
ふむ、この状況を乗り切るのに最善の策は誰か一人籠絡してしまうことだろう。と言っても狙うはマイペースな子だ。この子なら俺を怖がらずに普通に話してくれる――はず。
では何と言って話を切り出すか……あ、これならどうだろう。
「き、今日のおやつってレモンパイなんだって?」
俺が話のタネに選んだのは顔も知らないミシェル君からの情報だ。今もっとも旬な話のはずである。
「そだよ。でも僕はチェリーパイの方が好きなんだ」
思わず欧米か、とツッコミを入れたくなったが間違いなく伝わらないと思うので自粛する。しかし話は繋がった。サーブを打ったらちゃんとレシーブが返ってきた。ここは間違ってもスマッシュを打ってはダメ。必要なのは他の二人も加わりたくなるようなラリーを続けることなのだ。
「俺はアップルパイが好きかな」
「僕も好き」
「そっかそっか……ところでキミのお名前は?」
「僕? 僕の名前は――」
と、上手く会話が続いたと思った矢先だった。
「名前!」
突然おませな女の子が声を張り上げたのだ。名前、としか言わないから一体何のことやら、である。
「名前を聞くときは自分からってシスターが言ってた」
あ、なるほど。そういうことか。俺としたことがこんな小さな子に礼儀を教わるとは――面目無い。俺は膝をついて視線を女の子の位置に合わせる。
「あぁ、ごめんごめん。そうだったね。俺の名前は弐鷹翔、よろしくね」
言って右手をそっと差し出す。すると――。
「……フィリア」
女の子は自らの名前を口にし、俺と握手をしてくれた。ふぅ、少々予定と違ったが上手くコンタクトを取ることができたみたいだ。
「ねぇ、お友達を紹介してくれるかな?」
フィリアはコクリと頷くと、先程名前を聞きそびれた男の子と恐がりさんを俺の前まで連れてきてくれた。俺はとりあえずマイペース君から話し掛けてみた。
「はじめまして。俺の名前は弐鷹翔。よろしく」
フィリアにしたのと同じように振る舞う。
「はじめまして。僕の名前はエルリックです」
言ってエルリックも笑顔で握手をしてくれた。これで三人の内二人と知り合うことができた。さて、と――残るは……。
俺はチラリと恐がりさんに視線をやった。途端サッと視線を外される。取り付く島もない気配だ。仕方ない……裏技を使おうか。
「フィリア、この子の名前は?」
「ん? アベルだよ」
なるほど、アベル君か。ではキミとはどうやって仲良くなろうか。フィリアもエルリックも話のタネがあったから仲良くなれたわけだが、キミだけはどうもそれが無い。
だからと言っておずおず引き下がる俺であるはずもない。無いのなら作ればいいのだ。というわけで今回は外見的な特徴から話を膨らませてみようと思う。何故かと言うとアベルの蒼色の髪は、間近で見てみると空を思わせるようなとても綺麗な髪だったからだ。俺は今だかつてこんな綺麗な髪を見たことがなかった。
「綺麗な色の髪だね~」
「…………」
返事は無い。
「お父さんも髪が蒼いの?」
「…………」
返事は無いが首を振ってくれた。初めてリアクションらしいリアクションを見せてくれた。よし、この調子だ。
「じゃあ、お母さん?」
すると、コクリと頷いてくれた。よしよし、イイ感じだ。俺はこの後続けて二三、いや四五程質問を繰り返した。しかしアベルはなかなか心を開いてくれなかった。首を振る、動かすだけで全てを済ます。だがここまできたら何が何でも、という気になってくる。
そしてそんな俺の意地、というか努力が実を結んだのか、ようやく――。
「……うん」
アベルが返事をしてくれた。
何だか無性に嬉しかった。