出会い⑤
教会の中は外よりひんやりとしており、まだ昼間であるにも拘らず少し薄暗い。いくつもの椅子が正面を向いて並べられており、その正面にはおそらく信仰の対象であろう銅像が立っていた。
ルカのお父様はずるずると娘を引きずり更に奥へと進む。俺は見学者気分で教会内を眺めつつその後に付いていった。
奥には居住スペースの様な場所があり、そこではシスターが子供達と一緒に遊んでいた。子供達は此方に気付くと笑顔を振り撒きながら駆け寄ってきた。
「先生お帰りなさ~い」
先生と呼ばれたルカのお父様は初めて会った時と同じ優しげな表情を見せる。
「やぁ、皆良い子にしていましたか?」
ルカの存在を見事なまでにスルーしたやり取りに驚いたが、それを見たシスターもやって来た。
「お帰りなさいませ。フフ、ルカさんもお久しぶりね」
シスターはルカの存在にちゃんと触れた。まぁそれが普通だと思うが。
「あら、そちらは……お客様かしら?」
「ええ、此方の方がルカを連れてきて下さったんです」
俺はどうも、と頭を下げる。
「フフ、フィント様の恩人ということですね」
「オ、オホン。ま、まぁ……ですかね」
フィント司教はばつが悪そうに咳払いをした。
「そういえばフィント様にギルドからお手紙が届きましたのでお部屋の机に置いておきました」
「わかりました。確認しておきましょう。お客人、申し訳ありませんが少々お待ち頂けますか?」
「あ……あ、はい」
言ってフィント司教はルカを連れてどこかへ行ってしまった。会いに来たことを伝えたかったのだが……どうしたものか。と、俺が頭を捻るとシスターが声をかけてくれた。
「お客様をお待たせするなんて……誠に申し訳ありません。ただ久しぶりの親子の再会でして、どうかお許し下さい」
「あ、いえいえそんな。許すも何も突然お邪魔したわけですし。というか……久しぶりなんですか?」
「えぇ、話せば長くなるのですが――。フフ、でも本当にフィント様も口下手で、ルカさんにあんなことしてますけど、ああ見えて喜んでらっしゃるんですよ」
むむ、喜んでる様には見えなかったが……まぁ久しぶりの再会であれば仕方ないだろう。
「簡単に言うと――ルカさん随分と前にお父様と喧嘩なさってここを出て行かれてしまったんです」
「ッ! じゃあ、あの、つまり――家出?」
シスターは大きく頷く。塾長曰く『いい大人』なはずのルカは実は家出娘だったのだ。
「ですので何かお飲み物を用意しますので少々お待ち頂けますか?」
「あ、いえ、お気遣いなく」
とは言ってみたが俺はシスターに促され、近くのテーブルに座らせてもらった。木の匂いのする長方形のテーブルだ。シスター曰くルカのお父様が作ったそうだ。これが手作りかと思うと驚かざるを得ない。
「ではごゆっくりなさって下さい」
言ってシスターもまた何処かへ行ってしまった。
というわけで現在部屋に一人。部屋は静かでほんわかと暖かい。時折遠くで子供達の笑い声が聞こえてくるが、子供達の笑い声というのはどこに行っても同じだと思った。
しばらく一人でいると部屋の外から何やらひそひそ声が聞こえてきた。何を話しているかわからないが、おそらく二・三人くらいだろう。俺はコップを置いて扉に近付く。するとひそひそ話が僅かながら聞こえてきた。
「……なよ」
「や……、こわ……」
「ど……す……たよ?」
ふむ、さてはこの扉を開けるかどうか相談しているな。客人がそんなに珍しいか、と思うが子供というのは好奇心の塊――これもそんな子供達のちょっとした冒険に違いなかった。