出会い④
どんな子供達が待っているのだろうか――逸る気持ちを抑え教会の前に降り立った。会ったら先ずは挨拶するべきだが……どんな挨拶が良いだろうか。まぁ無難に『初めまして』が一番だろう。さて、喉は――。
「ン……ンン。オッホン」
今日も調子が良さそうだ。あとは清潔感溢れるスマイルで……よし、これで準備は完璧だ。俺は中に入ろうと入口の取手に手をかけた――その時。
「あ! そうそう!」
「ッ! って何だよいきなり!」
「悪いんだけど先行っててくれない? 私ちょっと用事を思い出しちゃったのよね~」
「え? それ、今じゃなきゃマズイ系?」
「う、うん。マズイ……系」
どことなく落ち着きの無いルカ。見るからに余裕が少ない気がする。
ふむ、仕方ない。用事とあらば引き止めるわけにもいかないだろう。まぁ、若干ギクシャクしている所を見ると怪しいと言えなくもないが……。何にせよここまで来れればあとはルカがいなくても何とかなりそうなので俺はオッケーを出した。
「ごめんね~、なるべく早く戻るから」
「おう……って、前見ろ前!」
ルカは慌てた様子で空に飛び立とうとしたのだが、それがあまりにも急すぎて此方に向かってくる男性とぶつかってしまったのだ。俺が注意を呼び掛けたにも拘わらず何をやっているんだか。
「すいませ~ん。うちのツレが粗相をしてしまったようで……」
俺はルカの元に駆け寄り男性に頭を下げた。隣に立つルカにも頭を下げろと促す。しかしルカは柄にも無く固まってしまっていた。
「すいませんホント。ほら、早く謝れって」
「いえ、結構ですよ。しかし貴女、そんなに慌ててどちらへ向かおうというのですか?」
男性はゆっくりと優しい口調でルカに問い掛けた。どうやらお怒りのようではないみたいだ。俺は肘でルカに謝るよう催促するが、全く動く気配が無い。どうしたのだろう――ちらりと横目で彼女の表情を伺う。
すると――。
「…………………あわわ」
まさかの顔面蒼白。しかも「あわわ」って。何をそんなに怯えるようなことがあるのだろうか。
「久しぶりの家なのですから少しはゆっくりして行きなさい――」
え、家?
「――ルカ」
突如発せられた低く唸るような声。思わず体が強張ってしまった。さっきまでの物腰柔らかそうな印象は消え、射抜く様な眼差しをルカに向けている。この人はルカを知っているのだろうか。
一方それを受けてルカの反応は――。
「…………」
いかん。体をびくつかせるだけでいよいよ言葉を失っている。仕方ない……ここは助け船を出してやろう。
「あの、付かぬ事をお伺いしますが……彼女とはどの様なご関係で――」
「私が、ですか?」
俺は小さく頷いて答える。
「私はフィント=ベルウェザー…………この子の父です」
あ、父。父ッ!? 人間、意図的に二度見すると大抵わざとらしく見えるが、きっと今の二度見は実にナチュラルだったのではないだろうか。ってか――フィントさん? ということは目当ての人、ということになる。しかし今は目的とは別に非礼を詫びねば。
「あ、あ、これは大変失礼致しました」
俺は前屈よろしく謝罪の意を込めて頭を下げた。
「いえ、どなたかは存じませんが――どんな理由であれ娘をここまで連れて帰ってきて下さり感謝します」
「は、はぁ……」
「ふむ、とりあえず中へ入りましょうか」
言ってルカパパ――失敬、ルカのお父様は、右手でがっしりとルカの耳をつまむと引きずる様にして教会の中へと入っていった。一瞬ルカが中に入るのを拒んだように見えたが、気のせいかもしれない。