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現実逃避も楽じゃない②

 今俺の目の前にいる物体に対して「見慣れぬ」という表現は些か語弊があった。申し訳ない。よく考えるまでもなく俺はそれらを何度も見た事があった。

 一応外見の説明しておくと、青くてプニプニしていて半透明。感の良い方なら何を言わずとも既にご理解していただいているかもしれないが念のために説明しておくと、かの名作『ドラゴンファンタジー』のマスコットであり名ザコキャラの『スライム』そのものなのである。

 その強さはというと言ってしまえば小手調べ。否、ゲームのチュートリアルとして利用されるレベルのモンスターなのだ。いやいや、もっとはっきり言おう。こいつらは弱い!

「フハハハハハハ、ザコがッ!」

 主人公らしからぬ笑い方であることは自覚している。しかし妙なテンションになっているから仕方ない。俺はとりあえず本を置いて臨戦態勢に入った。

 それに感づいたのか三匹は俺を囲むように移動した。ちなみにスライムの大きさはメロンくらいである。

「小賢しい真似を!」

 もう一度言う。変なテンションなのだ。

「先ずは貴様からだ!」

 何度でも言おう。変なテンションなのだ。俺はそのテンションを維持したまま目の前のスライムに殴りかかった。戦いの鉄則「先手必勝」である。

 俺の拳は見事スライムにクリーンヒット、スライムの体に拳が丸々めり込んだ。ふむ、やはりこの程度か。俺は少し気を良くして小さく笑った。しかし、ここで思い知らされることになる。俺の旅はまだ始まったばかりだったということを。

「ん?」

 異変にはすぐ気づいた。拳の先に強い反発を感じたのだ。するとどうだろう、俺の拳は勢い良くスライムの体から放り出され、それと同時に目の前のスライムが攻撃してきたのだ。

 それはそれは速く、ヒュッと風を切りながら俺の顔面に体当りしてきた。体が固体でないからか、まるでスナップの効いたビンタをくらった様な衝撃が走った。しかも顔面全体に、である。バッチーーーーーンと物凄い音も聞こえた。

「イッッッ!」

 あまりの痛みに言葉にならない。高校時代に喧嘩したことはあったがこれ程ダメージを受けたことは無かった。俺は顔をゴシゴシと撫でる。しかしこれだけでは終わらない。理由は明白、モンスターは三匹いるのだ。

 二匹目が右脇腹へ、三匹目が左膝へそれぞれ体当りをけしかけてくる。その激痛に俺は思わずうずくまってしまった。

「……クハッ」

 脇腹への攻撃のせいで息が出来ない。空気を求めて顎が上がる。

 ってか強っ! スライム強っ! いやいやいやいやおかしいだろッ! 俺、弱いのか? はたまたここのスライムが強いのか? チクショウ、こんな予定ではなかったのに!

 負け惜しみは尽きないが、まぁいずれにしても勝たねばならないのだ、何時までもへばっていられない。それにドラゴンファンタジーの五作目の主人公は十歳にも満たない歳でこいつらに勝ったのだ。満二十五歳になる俺が勝てないはずがない。

 俺は歯を食い縛って立ち上がった。そしてスライムに向かって吠えた!

「ぶっ殺してやらぁぁぁぁあッ!」

 言葉遣いが悪くて申し訳ない。しかしここはご勘弁を、久しぶりに腹が立ってしまったもので。

 俺は煮えたぎる腹を抱えながら先程のスライムに近寄る。よく見ると口元が笑っているように見えてまた腹が立ったがそれよりもこの怒りを早くぶつけたくてしかたなかった。ギロリとスライムを睨むと今度は殴らずに思いっきり踏んづけてやった。

 革靴がスライムの顔を深々と抉る。するとスライムは独特の声で鳴き、ボンッと音を立て煙となって目の前から消えたのだった。

「フゥフゥ……」

 まず、一匹。

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