出会い②
「ねぇねぇ」
「何?」
「ルカって教会の人だったの?」
入口の立看板で街の中央広場に向かうと書かれていた道を歩いている途中、俺はルカに問いかけた。あそこまで堂々とされると本当にそうなのかと思ってしまう。が――。
「ンなわけないでしょ。嘘よ、嘘」
やはりと言えばやはりな結果だが、結論からすれば嘘も時には方便となる、ということだった。
そうこうしている内に俺達は開けた場所に出た。これが中央広場なのだろう。円形の広場だが広さは、というととにかく広い。ぐるりと見渡してみてもその全容を把握するのが難しそうなくらいだ。
ざっとだが何があるかというと、広場中央にはお決まりの噴水――とそれを取り巻く木製のベンチ。至るところにある露店。そして人、人、人。
この賑やかさたるやお祭りの如し、である。ルカが言うにはこれが日常らしくまさに驚きだ。しかし更に驚くべきは行き交う人々の種類、人種というか種族というか――つまりは我々人間だけでなく様々な、それこそ塾長が話してくれた通り、妖精はもちろん幻想的な物語に出てきそうなエルフやドワーフ、猫耳の生えた美しい女性やら鱗肌の逞しい男性等がいた。
「ふぇ~、すげーな」
「そう?」
ルカはすました態度で答えるが少し自慢気に見える。まぁこんな光景を見させてもらったら自慢されても文句は言えない。
「つか教会は?」
「こっち。付いてきて」
言ってルカはパタパタと羽を羽ばたかせながら先を行った。人混みを縫うようにして飛んで行く様はまるで蝶の様だ。俺は人混みを縫いきれず掻き分けながらその後を追った。
しばらくして人混みを抜けるとそこは大通りから枝分かれした脇道だった。その突き当たりに再び門――大きさこそ街の入口より一回りも二回りも小さいが、それでも高さは俺の身長を遥かに超えた高さである。
ルカがその門の前で待っていた。どうやら目的地はあそこのようだ。俺は残りの距離を駆け足でクリアした。
「ここ?」
「そだよ」
彼女は当然の様に頷く。門を見てみるが今回は門番無し――ただ、気になる点が一つ。それは、門に鏡が嵌まっているということだ。しかしルカが言うにはここらしいが……。
「な、なぁ――」
と、俺が困った顔をするとルカはニヤリと笑い、なんと鏡に向かって飛んで行ったのだ。一瞬「あぶないッ!」と叫びそうになったが、それが声になる前にルカの体が鏡の中に吸い込まれていってしまった。
「え、あ、え?」
今俺は大層アホな顔をしているだろうが、この際どうでもよい。一体今何が起こったのか……。俺はルカがまだ周りにいるのではないかと辺りを見渡してみるがもちろんいるはずもない。
見知らぬ土地に取り残され手しまったのか。だったらどうしよう、と俺が一人項垂れた時だった。
「早く来なって!」
突如ルカの顔が鏡から飛び出してきたのだ。
「ル、ルカ」
「何やってんの。ちゃんと付いてきてよ。ここ通れるから、ダッシュ!」
「お、おう!」
俺は勢いを付けて鏡に突進した。鏡とぶつかりそうになった瞬間目をグッと閉じたのは言うまでもない。しかし鏡と激突するのではないかという心配は杞憂に終わった。俺の体は何にぶつかることもなく鏡をすり抜けたのだ。
「いつまで目を閉じてるの?」
「もう……大丈夫?」
「私としてはいつが危ないのかわからないんだけど」
随分な言われようだ。男としてここは何事も無いかの様に振る舞って見せようではないか。俺は意を決してハッと目を見開いた。すると目の前にはルカが……ん?
「大丈夫?」
「あ、あぁ…………っつか」
「何?」
「ルカでかくね?」