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出会い

 

 視界が暗くなった。目を開いているはずなのに何も見えない。ただ、何処かに向かっているという感覚はあった。代わり映えしない暗闇が延々と続く――かに思われたが、間もなくして周囲の暗闇が青く白んでいった。それはまるで夜明けの様な美しさだった。

 やがて遠くに一筋の光が見えた。俺達は吸い寄せられる様に光へと向かう。そしてそれが目の前にまで近付き、体が光に接触したかと思うと突然周囲に風景が現れた。初めは歪んでいたそれはゆっくりと元の形を取り戻していく。風景がようやく形を取り戻した時、見知らぬ地の音と匂いを感じることができた。

 太陽の目映い陽射しに目を細めながら周囲を一望してみる。陽を浴びて煌めく緑色の絨毯が遥か地平線にまで広がっていた。

「ここが……サンク・シャンディアか」

「そ。ここに住む人はみんなサンクって言ってる」

「ふーん、サンク、ね。島もここにあるんだろ?」

「うん。方角的にはあっちだね。まぁ塾長の結界で外からじゃ目には見えないから何とも言えないけど」

 ルカが島の方角を指差す。視線をそちらに向けるとその先に何か見えた。建物の様な物がいくつも立っている様に見える。

「なぁ、あれって街?」

「――と、そうそう。あれが一応これから行く予定のラビリアって街」

「なるほど。んじゃ、早速行こうか」

 俺はルカと共にラビリアと呼ばれた街を目指すことにした。


 歩き出して十分、小さく見えていた街並みが次第に大きくなってきた。街は赤いレンガ作りの家屋が目立つ。そして一際目を引く巨大な風車があった。ルカが言うにはラビリアの名物らしい。

「街についたら……わかってるわよね?」

「ひとまず教会へ行くんだよな」

「そう。あと一応言っておくけど――」

 と、ルカが街に着いてからの注意事項について話をしてくれた。しかしこれといって特筆すべき程のこともないので注意事項といえども割愛である。まぁルカとしてみれば言語道断な行為かもしれないが。

「わかった?」

「ハイハイ」

「ハイは一回!」

「イエッサ!」

「くぉんの……ッ舐めてン――」

「っとストップストップ! 着いたよ」

 ふざけていたらいつの間にか街の入口に到着していた。入口には大きな木製の門が聳え、その両脇には門番よろしく自警団風の若い男性が立っていた。二人の男は此方を訝しむ様に見ている。

 俺とルカは直ぐ様ニコリと笑い、いい人アピールを済ませると何食わぬ顔で門をくぐ――れなかった。くぐろうとしたがくぐれなかった。男達がその両手で持つ長い槍を此方に向け、読んで字の如くまさに立ちはだかったのである。ふむ、その見事な立ちっぷりには感嘆する。

 しかしこれでは街に入れない。俺はさりげなくご苦労さま、と片手を挙げて歩を進めてみたが徒労に終わった。おのれ、意外としぶとい奴等――まぁ俺の誤魔化し方が下手なだけという可能性もあるが、理由としてはおそらく前者だろう。さて、どうしたものか……。

「おい、何者だ!」

 ん? 俺のこ――まぁ、俺しかいないか。

「何とか言ったらどうだ!」

「あ、えっと……名前は弐鷹と言うんですが――」

 困った。この世界で証明出来る身分が無い。塾講師ですってのも可笑しな話だし……。俺は頭をポリポリ掻いて何か妙案がないか思考を巡らした。

 と、その時――。

「私達はクローレンツ教会のものです。こちらにいらっしゃるフィント司教様にお会いしたいのですが」

 ルカが滑らかな口調でフォローしてくれた。彼女の話の内容はよくわからないが、二人の男を見る限り効果はあったようだった。今の今まで突きつけられていた槍の穂先が下ろされたのだ。

「ほ、本当か?」

「そうです。早急にお会いしなければならない故、ここを通して頂きたいのですが」

 本当に教会の人間の様な態度。一寸の揺るぎもない彼女の態度に男達は完全に気圧されていた。

「わ、わかった。ただし……問題なんて起こさないでくれよ」

「もちろん」

 言ってルカが先を行く。俺は「どうも」と頭を下げその後を腰を低くして付いていった。


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