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未知の世界へ③

 

 準備と言っても俺がやることは少ない。強いて言うなら携帯がサンク・シャンディアでも使える様に――充電は雷の魔法でやるらしい――塾長の携帯と魔力による同期をしてもらったことぐらいか。本当なら家に連絡して、なんてことをするつもりだったが塾長が何をどう上手くやっているかわからないが、問題は無さそうなので変にほじくらないためにも自重した。

 というわけで準備のメインは塾長が執り行う。俺をサンク・シャンディアに転送するための魔方陣を描くのだ。俺はそれを黙って見ているわけだが、塾長は魔方陣を描き終えると意外にも才崎さんを呼び出した。

「はいー」

 澄みきった河のせせらぎを思わせる声が聞こえてきた。そして間もなく部屋の扉が開き才崎さんが姿を現した。今日は白のカーディガンを羽織っており、どこぞの妖精より妖精らしかった。

「お、お久しぶりです」

「はいー、お帰りなさい。フフ、今日は面白い服を着ていらっしゃいますね」

「ッ!」

 すっかり忘れていた。俺、体操着姿だったんだ。別に自分はオシャレ野郎だとは思ってないが、やはり気になる女性と会うときはそれ相応の格好はしているつもりである。にも拘らずこの失態――穴があったら入りたい。

「島だったらそれで問題無いけど、これから行くとこにその格好は頂けないよね」

 心無い塾長の追い討ち。言われなくともわかっていますがな。

「だから俺からキミにプレゼントだ。才崎さん」

 と、促され才崎さんはその美しい手に持つ紙袋を俺に手渡した。

「え? これは?」

「見てごらん」

 紙袋の中を覗いてみると……おぉ、これは。

「スーツ……ですか?」

「そう、うちの講師の制服だよ。キミが着てたスーツと違って防御力に関してはお墨付きだ」

「あ、ありがとうございます」

「じゃあ隣の部屋で着替えておいで」

 俺は言われるまま体操着からスーツに着替えてきた。部屋に戻ると皆の視線が一斉にこちらに向く。少し照れ臭い。

「あらー、良く似合ってますよ」

 才崎さん……貴女に褒めてもらえるなんて、ぼかぁ幸せモンだなぁ。

「ほぅ、なかなかじゃないか」

 いやぁ、そうかしらん。もっと褒めてくれて構いませんよ。ハッハッハ。

「うんうん……」

 いやいやルカよ、皆まで言わずともわかるぞ。

「――馬子にも衣装ね」

 黙らっしゃい。

「ハハハ、そりゃ可哀想だぞルカ――さて、これで準備は整ったな。あとは出発するだけだ」

「何から何までありがとうございます」

「なーに、気にすることはないよ。キミはキミの仕事に専念してくれ。あ、それとな、普段なら一ヶ月程トレーニングするんだが、今回何かと時間が無くてね――理由は向こうに行けば聞くだろうから置いとくとして、キミはまだ一週間しかトレーニングしてないから、今回は特例として――」

 特例? というか本来はあの島に一ヶ月もいなくてはならなかったとは。

「しばらくルカを同行させる」

「え!?」

 と、驚いたのはルカだった。

「何をそんなに驚いてるんだ?」

「え、いや、もっと別の仕事かと……っていうか島はどうするの?」

「島はしばらく閉鎖する。実はまだメイジキラーやらのモンスターが島に現れた原因がわからなくてね。弐鷹クンのトレーニングも切り上げられたから丁度良いと思ったんだ。それに地理感覚もない人間を一人で送るのは危ないだろう? な、頼むわ。これしおりだから」

 ルカは先程俺が見せてもらった可愛い動物の絵が書かれている紙を受け取るとざっと目を通した。一瞬体がびくつき、塾長に並々ならぬ視線を送ったが、やがて納得したのか小さく頷いた。

「さて、と。そろそろ送ろうか。二人とも魔方陣の上に立ってくれ」

 言われて俺は床に描かれた魔方陣の上に立った。いよいよか、と思うと自然と胸が弾む。

「ルカ、またしばらくお世話になります」

「あんまり手をかけさせないでね」

 ルカはニコリと笑いながら応える。その笑顔が逆に怖い。

「はいはい、二人とも静かにしてくれ――じゃ、行くぞ」

 言って塾長は呪文の詠唱を始める。するとルカは俺の肩に腰を掛けた。やはりこのスタイルが一番しっくり来たりする。

時空転移(ディメンズゲート)!」

 詠唱の終了と共に周りの風景が歪み始める。塾長と才崎さんの姿も揺らぎ始めた。俺とルカは消え行く二人に手を振った。


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