未知の世界へ②
「えぇと……これこれ。ここを見てほしい」
言われた通り指差された箇所に目を向ける。そこには日程と可愛らしい動物達の絵が書かれていた。差し詰め小学生の遠足に出てくる栞と言ったところか。
「まず俺がキミを向こうに送る。そしたら近くに街があるはずだからそこに行ってほしい。で、街に到着したら教会に行ってそこでキミが面倒を見る子供達と合流してくれ。まぁこの辺は神父さんがちゃんと手続きしてくれるだろうから大丈夫なはずだ。ここまでは大丈夫かい?」
「はい」
「よし。で、子供達と合流したら装備品やら消費アイテムの確認をして準備が整ったらいよいよ本格的な旅の始まりだ。ここからは――特に言うことは無い。自由にやってくれ」
「自由……ですか」
「うん。最終的には魔王を倒してくれればいいから」
「はぁ……」
一通り話終えた塾長は満足そうに煙草を吸った。しかし俺としてはどうもしっくり来ない。目的がはっきりしているというより大雑把な気がするのだ。ここは申し訳ないが勝手に質問タイムに入らせてもらおう。
「あの、ちょっといいですか?」
「何だい?」
「魔王ってどれだけ倒せばいいんですか?」
俺の記憶が正しければ塾長は以前、魔王は何体でもいる、みたいなことを言っていたはずだ。
塾長は俺の質問を受け口をあんぐり開けて固まった。まさか、俺は何か言ってはいけないことを言ってしまったのか……。
「あー! ごめんごめん! だよねー、忘れてたわ! うん、あのね、ウチは向こうにある教会と協力関係にあるんだけど、その教会の支部――さっきも言ったキミが最初に行く街の教会が担当する地域があって、そこにいる魔王を一掃してもらいたいんだ。それが出来たらキミの仕事は終わりになるから」
「つまりそいつらを倒さないと……」
「帰ってこれないよね」
やはり。だがこれでようやく目的がはっきりした。お陰で何の問題も無く向こうに行けそう――ではない!
ヤバイ、すっかり忘れていた。何を忘れていたか、それは――家である。
実は私、今だ浪人の身であるため実家暮らしなのだが、旅に出る云々の前に、思い返せば何の連絡も無しに一週間家を空けていたのだ。
俺の周りで唯一殺気を扱える母親はこの様なことを絶対に許さない。況んや間違いなくキレているだろう。いや、逆にもしかしたら行方不明的な感じになって心配してくれているかもしれない。ならば尚更色々の説明やらこれから旅に出ることも含めて連絡するべきだろう。それが親と子の信頼関係というものだ。
「じ、塾長……」
「ん? 今度は何だい?」
「あの、家に連絡していいですか?」
「何で?」
『何で?』じゃねぇー!
「あぁ、もしかして一週間無断外泊とか何とか、心配してる?」
俺は力強く頷いた。
「んなもん大丈夫に決まってるじゃーん。俺がそんな単純なミスを犯すと思うのかい?」
「いや、別にそういうわけじゃ……」
「こっちのことは安心していいから。キミは向こうで仕事に専念してきなさい」
意外にも塾長が心強い言葉を掛けてくれた。本当にいつも思うがこの人の言葉は不思議と安心感を与えてくれる。俺はふと力が抜ける感覚を覚えた。だが心配が拭えたわけではない。
「……うーん」
「そんなに心配かい? だったら携帯を見てみればいい」
携帯? あ、なるほど。俺はバッグから携帯を取り出し、着信履歴を見てみる。
「ハハハ……」
思わず笑ってしまった。本来一週間も連絡しないでいたら家族からの連絡で着信履歴は埋まっているはずなのに、全くその様な異常は見られなかったのだ。
「んじゃ、準備に入ろうか」
塾長はニコリと笑った。