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未知の世界へ

 

「あの時は……ごめん」

「…………」

「あれは、何て言うか――嘘だったんだよね」

「…………」

「そんな眼で睨まれても……」

「…………」

「ハァ……ホントに見えてなかったんだって――パンツ」

「……だ・か・ら――ッ! パンツってぇ言うなぁーーッ!」

 ルカはこれでもかというくらい全身で怒りと悲しみをぶつけてくる。俺としてはそれを治めるべく、試験中に生まれた些細な誤解を解くために事実を説明しているのだが、どうも信用されていない様でさっきからこんな感じのやり取りを繰り返してばかりいた。

 現在予備校の一室にて彼女と二人きり――相手は妖精なれど一人の女性。本来なら種別を越えた甘いムードになってもおかしくないシチュエーションなのだが、現実はそんな妄想とは程遠い険悪なムードだった。

 では何でこんなことになっているか、いや、ルカが怒っている理由でなく、何故二人きりになったかをお話したい。話は若干遡るが、島から帰ってきた俺は正式に採用の通知を受け、それに当たって色々手続きを済ませたわけだが、それが終わると塾長が俺とルカを残しどこかへ行ってしまったのだ。俺の試験を見ていた塾長なら二人にすればこうなると容易に予測出来たはずなのに、人が悪い。しかし、あの人のことだ――案外この時間を使って仲直りしておけとか考えているのかもしれない。だったらその策に便乗させていただきます。

「ルカ、ごめんな」

「フンッッ!」

 彼女の怒りは永久凍土よろしくまったく熔けそうにもなかった。ハァ、俺としては早く仲直りをしたいのだが、簡単に行きそうにないらしい。ハァ――と、俺がもう一つ溜め息をついた時だった。

 扉がガチャリと音を立てて開き、塾長が煙草を咥えながら部屋に入ってきた。

「お待たせ~……って険悪な雰囲気だね。あ、もしかしたら――修羅場中?」

「な訳ないでしょ」

 思わずツッコミを入れてしまった。というか塾長……本気で言ってないですよね?

「ふーん、ってかルカずっと機嫌悪そうだけど、どした?」

 あんたは試験中何を見てたんだ。

「いや、実は――」

 俺は半ば呆れ気味に事情を説明した。どっか抜けた塾長であるが味方は多いことに超したことは無い。塾長は話を聞くとようやく思い出したようで「あぁ、あれか」と掌を叩いた。

「だから、ずっと見てないって言ってるんですけど……」

「ハハハ、そりゃ災難だったね。ルカ、安心しな。俺もゴーレムから見てみたけど見えなかったから」

 ってあんたも見てたんかい。

「最低ッ!」

 ルカの怒りが塾長にまで飛び火した。俺としては怒りが分散されて喜ばしいことではある。

「まぁまぁ。事実俺も弐鷹クンも見てないんだから問題無いだろう」

 正直フォローとしては最低だが不思議と塾長の言葉はちゃんと届いているようだ。彼女の顔から少し怒りが引いたように見える。

「それになルカ――男ってのは大人になるとパンツなんかに興味示さなくなるもんなんだよ」

 塾長、それが世に言う蛇足と言うやつです。


「さて、キミにもいよいよ講師として現地に赴いてもらいたい」

 頬のアザをさすりながら塾長は話し始めた。アザは言わずもがなルカの鉄拳を食らってできたものである。口は災いの元とは彼のためにある言葉かもしれない。しかし意外にもそれで怒りを発散できたのか、ルカの機嫌はすっかり直っていた。もしかしたら塾長は身を呈して彼女の機嫌を取ってくれ――たわけではないだろう。まぁ、結果オーライだ。

「あの、それは……島とはまた別の世界なんですか?」

「いや、同じだよ――」

 塾長はゆっくりと紫煙を吐き出し言葉を紡いだ。

神々の地(サンク・シャンディア)、あの世界の名前だ――覚えておくといい……ふむ、そうだな。少し話をしようか」

 言って塾長は粛々と話を始める。その話はまさに夢物語の様な幻想的な話、と思いきや意外にもそんな事はなかった。

 サンク・シャンディア――太古の昔より神々の地であるその世界は数多の神に愛されていた。人・妖精・エルフ・亜人等々、様々な種族が争いも無く平和的に共存し、四季折々の草花が咲き乱れ、住まう人々の笑顔も絶えることはなかった。

 しかし時が流れあらゆる物が進化・発展していく中、古き存在たる神々の存在は次第に忘れられていく。そのため長く続いた神々の寵愛も薄れていってしまい、その寵愛を無くした世界には争いが生まれ、結果として多くの命が失われてしまうこととなった。更にはいつの頃からか、理由は今だ不明だがモンスターが姿を現し始め、それを束ねる魔王等が世界を脅かし始めた。そして現在、神々の地とは名ばかりで神を失った世界は休む間もなく争いを繰り返しているのだと言う。

 正直そんな世界だとは思っておらず、話を聞き終わった後暫し言葉を無くしてしまった。塾長は新しい煙草に火を着け此方を見ている。俺の反応を待っているのだろうか――と思ったが違ったようだ。

「どうだい?」

「え? あ、どうって……」

「ん。だから話を聞いて、さ」

「は、はぁ……」

 どうと突然聞かれても答えるにはなかなか難しい。そもそもサンク・シャンディアに対する予備知識も無かったわけだし……。

 ただ、強いて言うなら――。

「――早く行ってみたいです」

 が、本音である。マンネリな生活からの脱却、それこそがこの世界観を受け入れた理由なのだから、何にせよ止めるという選択肢など有るわけがない。

「……ククク、ハハハハハ! 良かった良かった。これで止めますとか言われたらどうしようかと思ったよ」

 だったら話さなければよかったのではないだろうか。

「つっても今は昔みたいに酷くはないから安心していいよ」

 話を盛りやがったな、と本当なら悪態をつきたいとこだが我慢しよう。

「じゃあ最後に、向こうで何するかおさらいしておこう」

「あ、はい」

 塾長は机の引き出しから数枚の書類の様なものを取り出した。


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