終・島巡り⑦
俺はタイミングを見計らわずにとりあえず茂みから出た。そして体操着に付いた葉っぱを払い落とす。勿論その姿にルカもゴーレムも気が付いた。
「いたぞーッ!」
まるで脱走者でも見つけたかの様な口調である。ルカは直ぐ様ゴーレムに指示を出し、俺を殲滅せんと息巻いている。怒り冷めやらぬといった様子を見ると、試験が終わったらきちんと説明する必要がありそうだ。
「ゴッ!」
一方のゴーレム、ルカに良いところを見せようとしているのか猛然と此方に向かって来るが、これからやられるなどと露にも思っていないだろう――終結は近い、はずだ。
だがルカもゴーレムもそれには気付いていないようだった。俺を倒さんと怒涛の攻めを展開してくる。
「ゆっくり追い詰めて行きなさい! 魔法は撃たせないように!」
ルカに関しては驚くほど的確な指示をゴーレムに与え、ゴーレムもゴーレムでそれを忠実に実行していた。もしかしたら二人のコンビネーションは意外と良いのかもしれない。
「クッ!」
たまらず俺は後退した。が、これは俺なりの演技である。ルカの考えとしては、魔法を使うためには魔方陣を描く必要があり、それを宙に描くとなるとその場から離れられなくなるというのが必定であるため、確実に詠唱の妨害出来る、つまりは俺に魔法を使わせずに済むと踏んでいるはずだ。俺がゴーレムに打撃戦で勝てるなら甚だ検討違いと言えるが、そんなことは不可能であるためあながち間違った考えではない。
しかしこれに関して俺は、最初に思い付いた応用とは別に素晴らしい応用方法を発見したと思っている。
とりあえずそれをお披露目する前にいつも通りに呪文の詠唱を始めてみた。案の定ゴーレムによる妨害が入ってしまう。が、これで良い。これでルカは俺が魔法を使いづらい状況にあると自らの作戦で感じたはずだ。やはり何事もギャップは大切である。そのために必要な布石ならば打てるだけ打っておく。
ではいよいよお披露目させて頂こう。
「月夜に舞う精霊の凍てつく吐息に散れ! アイスランスッ!」
俺は走りながら、振り向き様にゴーレムの右肘の関節部分、比較的柔らかそうな場所目掛けて魔法を放った。
「な、何で!?」
ルカの驚く声がここまで聞こえてきた。フッフッフ、どうだ。驚いただろう! しかしこれで終わりではない。続けてアイスランスを三回、同じ場所に撃ち込んだ。さすがにゴーレムと言えど関節部分までは硬く丈夫にできてはなかったようで、三回目でとうとう氷の槍が突き刺さった。と同時にその周囲に亀裂が走った。
「ゴォ……」
この戦い始まって初めてゴーレムのテンションが下がった気がした。ルカもまだ戸惑っているようだった。それはそうだろう……彼女にしてみれば俺が動きながら魔法を使うなど思いもしなかったはずである。
ではここで種明かしと――まぁ、種明かしと言ってもそんな大したものではないが、何も難しい話ではない。ただ魔方陣を掌に描いただけなのだ。そうすることで動きながらも魔方陣が問題なく描けるのである。
要するに魔力をインク代わりに魔方陣を描く際、キャンパスを何にするかが大事なのだ。
いつも使う『宙』というキャンパスは、言うなれば無限に広がるキャンパスである。そのため巨大な魔方陣でも描けるという長所を持つのだが、その無限に広がるという特性故にその場に留まらなければならないという短所があるのだ。
一方で『掌』をキャンパスとすれば、極端な話自分の手が無くならない限りどこでも自由に描けるのである。ただし魔方陣が一回り小さくなるという短所があるが……。
とりあえずこの応用により俺は固定砲台から戦車への昇格を果たしたのだった。