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現実逃避も楽じゃない

 

 さて、なかなか話が突飛過ぎて頭が理解を拒絶しているのが現状だがここは多少無理をしてでも理解に努めるべきだろう。

 塾長に変な話をされて落とされて……で、今変なとこにいる。ダメだ。全く纏まっていない。これでは小説を読む読者に伝わらないではないか。ならば今見えている物だけでも確認しよう。

 土、空、海、木、花、以上。

「以上って」

 思わず自分でツッこんでしまった。だがこれも事実。見た限りではいわゆる大自然とやらが広がっている。あの古ぼけたビルからここへどうやって移動してきたのか皆目見当も付かないが、今俺は間違いなく大自然に囲まれた場所に立っている。

 辺りを見渡せど人の気配など無く、風が木々や草花を擽る音しか聞こえて来ない。ふむ、一先ず深呼吸だ。

「ふぅ……」

 よし、これで少しは冷静になれたはずだ。で、俺はどうするべきか。まず現実問題としてここから帰れるのかどうか考えてみる。しかしその解答はおそらくだがわかる。

 まぁ普通に考えれば何故か、と思うかもしれないが理由は簡単。大まかに言えば俺はこう見えて数多くのゲームをこなしてきており中でもロールプレイングには目がなく、塾長が話していた魔王だなんだかんだの類いは腐るほどやってきたからだということ。

 しかしこれでは理由にならないとお怒りになられる方もいるかもしれないのでもう少し説明を加えておこうと思う。つまり、塾長の話はゲーム――特にロールプレイングだ――に通じるものがあったため、今まで積み重ねてきたそれらの知識を徹頭徹尾塾長の話と照らし合わせてみたのだ。

 而るに、俺がここから脱出するにはある程度訓練、ゲーム的に言えばレベルアップをして特定のイベントをこなすかなんかで帰れるようになるのだろうと思う。

 次に、これは根本的な問題であるが、そもそもこんなふざけた話を受け入れるのかどうか、という問題である。

 これは分別ある成人として、果たして受け入れて良いのだろうか。資格浪人の身であるが私生活では常識人であると思っている。二次元と三次元の区別もつく。彼女は全て三次元だった。しかし、誰にも打ち明けたことは無いが、正直こんな非日常的な出来事を期待していたのも事実なのだ。

 とすれば、このバイト探しは金を稼ぐことが前提ではあったが少なからず気分転換の意味合いもあったわけだし、現実逃避の一手段としてこの際潔く受け入れてしまおうか、と考えた俺は熟慮に熟慮を重ねる前に受け入れることにした。

「俺、魔王を倒す!」

 誰もいないことを確認して言ってみたがこれはなかなかに恥ずかしい。とその時だった。

 ガツンと頭に鈍痛が走ったのだ。何事か、と思った俺は辺りを見渡す。右、左、前……と見てみるが特に異常は無い。となると残るは背後。俺はぐるりと振り返った。

 するとそこにはなんと一冊の本が、ぼんやりと光ながら空中に浮いていたのだった。

「うぉいっ!」

 びっくりした。色々と。それはさておき、俺は恐る恐る本に手を伸ばしてみた。本は俺が触れると光を失い地面にドサリと音を立てて落ちた。光を失ったそれは傍から見れば至って普通の本にしか見えない。それを拾い上げて表紙を捲ってみる。そこには短い文章が書かれていた。


『君がこの伝言を読んでるってことは腹を決めたってことだね。重畳重畳。ではキミの気が変わる前に本題に入ろう。今キミは俺が作った無人島にいる。そしてそこでやってもらいたいのは島を一周する事だ。一周し終わる頃にはある程度の実力も備わっていることだろう。あと、分からない事があればこの本に聞いてくれ。それで問題は無いはずだ。最後になるが、これはキミにとって初めての旅になる。存分に楽しんでくれ。  塾長 霧岡』


 お心遣い感謝である。というか塾長の名前をここに来て初めて知った。帰ったら無駄に呼んでみようと思う。

 さて、いよいよ俺の冒険が始まるわけだがその前に装備品の確認をしないといけない。車を運転する前にシートベルトやミラーの確認をするのと同じだ。


・武器:なし

・防具:スーツ

・アクセサリ:不思議な本


 まぁ現状はこんなとこだろう。武器が無いのは心許ないが一応成人なりの腕力がある。問題は無いはずだ。防具もスーツという防御力が有るのか無いのか微妙な物だが、斬新さでは気に入っている。よし、準備はこれぐらいにして早速出発しよう。

 と思った矢先……俺の目の前に見慣れぬ物体が三匹姿を現したのだった。

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