終・島巡り②
休憩を終えると再び歩き出した。しかし思いの外休みすぎてしまったのか時刻は既に夕方、木々の影も延び始める時間帯になっていた。
今日も行けるとこまで行きたい。となるとこの動きやすい時間帯にどれだけ距離を稼げるかにかかっている。俺は杖を片手にランニングを始めた。
軽快とは程遠い足取りで島を駆ける俺――そしてその背中に迫り来る夕闇。
走り始めて三十分もしないうちに太陽がまた明日、とさよならを告げた。俺は僅かばかりの直線をダッシュする。走り終えると口に鉄の味が広がり、喉の奥が乾いてヒリヒリした。なんだか高校の部活を思い出した。
「ハァハァ、今日、は、こんくらいに、ハァフゥ、しておこう」
俺はその場にへたり込んだ。慣れない運動はやはり堪える。
「ハハハ、お疲れさーん。あ、今日夕飯は何がいい?」
ルカがペンションの用意の傍ら問いかけてきた。しかし頭に血が回っていないのか何が食べたいのかパッと思いつかない。とりあえず横になって考えることにした。大の字になって空を見上げる。太陽が沈んだ方角だけ少し明るく、紫色のマーブル模様になっていた。
「夕飯ねぇ……夕飯――肉かな。うん、肉系」
それに対しルカは「アバウトだな」と笑った。ジャンルはチョイスしたので許してほしい。
しばらくするとペンションが姿を現し、ルカが夕飯の仕度を始めたのでその間に俺はシャワーを浴びさせてもらった。なんという至れり尽くせり――ここまでしてもらってホント申し訳なくなる。
ふと思ったがもしかしたらこれは冒険というより低予算の旅行に近いかもしれない。
いや、いやいや。シャワーの熱い湯に打たれながら頭を振った。俺はちゃんとモンスターと戦っているし成長もしている。だからこれは歴とした訓練なのだ……たぶん。ちょっと自信がない。
「ご飯できたよ~」
母親かッ! 瞬間的にツッコミが口元まで出かかった。
「今行く~」
って子供かッ! 思わず自分にノリツッコミをかましてしまった。いかんいかん、自分はあくまで訓練生なのだ――彼女の優しさに甘えてばかりいてはいけない。俺は自分を厳しく律する決意をした。
「よし、明日から頑張ろう」
弐鷹翔――人に優しく、自分にも優しい男であった。
そんな俺の旅も二日目が終わり、三日目四日目と過ぎていく。道中休みながらもゴールを目指し日々歩を進めるが、島は思ったより広く、険しかった。
いや、険しいと言っても歩く道はなだらかで然程問題ではない。モンスターも塾長の管理下にないモンスターに手こずらされただけで、あとはこれといって大きな問題はなかった。
では何が険しさの要因となったか――それは意外にも気温の変化だった。島を進めば進む程その高低差は激しく、猛暑日の翌日に雪が降る――酷い時は今の今まで吹雪いていたと思ったらいきなり真夏の炎天下に放り出される、なんてことまであった。元々体温調節が苦手な俺は本当にキツかった。
詳しい話はまた長々とページを割く必要があり、冗長になる可能が高いので此処では省かせて頂くが、なにはともあれ様々と言うほど様々でない苦難を乗り越え、それほど高くはないが目の前に立ち塞がる壁を破り、コーヒー程度の苦渋を味わった俺はようやくゴール――つまりはスタート地点に戻ってきた。
俺が初めてこの島に訪れてから丁度一週間、とうとう島一周を成し遂げたのだ。この短くも長く感じた初めての旅の記憶が次々と蘇ってくる。あれから使える魔法も若干ながら増え、最初の頃とは比べ物にならないほど成長した……と思う。本当によく頑張った、と自分に労いの言葉をかけた。
「ショウ、お疲れ様」
肩に座るルカから労いの言葉が贈られた。
「ありがとう」
俺も笑顔で受け取る。
「じゃ始めよっか」
「ん?」
「最終試験」
何の前触れもなく最後の試験が始まった。