終・島巡り
翌日――。
昼頃まで寝かしてもらった俺は、起きてからもう一度シャワーを浴びた。やはり寝起きのシャワーは良い。靄の掛かった視界が晴れる様にスッキリする。
さっぱりすると体操着に着替え外に出た。太陽は天高く昇り、気温も既に高くなっていたが、雲一つ無い青空と吹き抜ける心地好い風がやる気を与えてくれるようだった。
「おはよ~」
ルカがペンションの屋根から降りてきた。どうやら彼女の寝床はここの天井裏にあったようだ。
「おはよう」
「よく眠ってたね」
「ん? そうか?」
「イビキ凄かったもの。あれは地響きの如しだったね」
これは申し訳ない。きっと久々の運動で半端なく疲れていたせいだろう。しかしぐっすり眠れたお陰で体はすこぶる軽かった。
「んじゃま、とりあえず腹ごしらえしてから出発ってことで」
「りょーかい」
言ってルカは早速食事の準備に取り掛かった。しばらくして飯の良い香りがしてくる。俺はすることもないのでテーブルの用意など、心許りの手伝いをした。
そして待つこと二十分、手作り朝御飯――正確には昼御飯――が目の前に並んだ。いただきますの合図と同時に手を動かす。味はやはり絶品。エネルギー補給以上の感動を与えてくれた。
食事を終えるとルカがペンションを片付ける。小綺麗になった寝床跡を一瞥すると俺達はようやく出発した。
俺の冒険もいよいよ二日目に突入した。そう、何だかんだページを割いてまだ二日目――しかし、されど二日目、である。
昨晩の死闘を経た俺は塾長の言った通り目を見張る程の成長を遂げていた。この成長には自分でも驚くばかりで、本日既に新たなモンスターと遭遇したがまさに一蹴だった。
向かうとこ敵無し――最早この島の生態系の頂点に君臨してしまったのではないか。しかしルカはそんな俺に「自惚れんな」と一喝、その威圧感に生態系の頂点を見た気がした。
歩き始めてどれぐらい経ったか、腹時計はそろそろ三時だと告げている。昼出発したとなると既に三時間程行軍したことになる。
「フゥ、ちょっと休憩ぇ」
「ほいほーい」
ルカは返事と同時にコーヒーメーカーを具現化した。どうやらコーヒーをご馳走してくれるようだ。俺はその姿を眺めながらふと思ったことがあった。
「ルカさんに質問」
「うむ。何かね」
このノリの良さは素晴らしいと思う。
「ここら辺のモンスターって倒すと煙になって消えるじゃん? でも昨日のメイジキラーは砂になったよね……やっぱあれって塾長の管理下云々が関係してんのかな」
「あ~あれね――うん。たぶんそうじゃない? 私もここで色々モンスター見たけど砂になって消えたモンスターは昨日のアレが初めてだもん」
「ふーん、そっか……」
「気になった?」
「ウ~ン、ちょっとね。ホラ、これから先強いモンスターが出てきた時そいつがここのモンスターなのか、その――あれだよ、外のモンスターなのかで俺が目指さないといけないレベルがわかる気がするんだ」
ルカは首を傾げながらコーヒーを注いでくれた。コーヒーは美味かったが俺の話は上手いこと伝わってなかったようだ。
「つまりこの島のモンスターくらいは余裕で倒せるレベルを目指すってことだよ」
「あぁ、なるほどね。うん、良い心がけだと思う」
コーヒーカップを傾けながらルカは言った。俺もコーヒーを一口啜る。程好い苦味が舌の上に広がった。
「あ、それともう一つ」
「何?」
「……いや、やっぱいいや」
「?」
塾長が彼女に「大人」だと言っていたのを思い出したが、流石に直接年齢を訊ねるのは憚れた。