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束の間の休息

 

 じりじりと追い詰められる最中、ふと塾長の言葉を思い出した。まるでこれから敵が増えると言わんばかりのあの台詞だ。

 すっかり忘れていたが、もしかしたら塾長はこうなることを予見していたのだろうか。しかしだとしたら何故一匹目を倒した後はすぐにその場から逃げろ、的なことを言わなかったのだろうか。

 疑問ばかりが頭の中を駆け巡り打開策の検討までたどり着かない。

「ルカ、ここから離れろ」

「ショウは?」

「俺のことなら気にするな。何とか逃げてみせるさ」

 とは言ってみたが逃げれる気配が無い。まさに皆無。そして気付かされる絶体絶命の危機。

「わ、私もここにいる!」

 言ってルカは俺の肩に寄り添ってきた。小さいながらも頼りになる存在だ。しかし彼女には悪いが如何せん助かりようの無い状況に変わりはなかった。

「これぞ万事休すってか……」

 生まれて初めて真面目に使った言葉かもしれない。これが何もない状況だったら笑っていただろうが、笑えないのが残念だ。

 そうこうしているうちにモンスター達の包囲網は随分と小さくなっていた。こうなると予知能力の無い俺ですらこの後どうなるか容易に予想がつく。

 敵に一斉に攻撃され棍棒でメッタ打ち。ミンチ肉になること間違いなしだ。それで美味しいハンバーグでも作ってくれれば俺も成仏できるだろうが、彼等はそんなことはしないだろう。

 仕方ない、と俺は決死の覚悟で突撃することを選んだ。玉砕必至の万歳アタック、時代錯誤の神風特攻だ。

 腰を低く構え足に力を込める。そして剣をきつく握り締めた。

「っぁぁぁぁぁぁぁぁああああ!」

 雄叫びをあげ、自らの気勢を上げる。決して負け犬の遠吠えだとか、弱い犬ほどよく吠えることの表れではない。

 思い残すことは多々あるが、今は全てを忘れていざ行かん!

 俺はモンスターの群れに向かって走り出した。ところが、何故か次の瞬間に目に映ったのは土色の壁――否、地面だった。それがあまりにも急だったので自分が転んだと気付くのに時間がかかってしまった。

 まさかあれだけ気合いを入れておきながら一歩目で転ぶとは……尚且つ顔面まで派手に打ち付けるとは……これでは死んでも死にきれない。沸々と怒りがこみ上げてくる。

 おのれ、何に躓いたかわからないが、ここぞという場面でとんだ邪魔が入った。別に八つ当たりをするつもりは無いが、とりあえずその邪魔者を確認するため足元に目をやった。

 てっきり小石や溝の類いがあると思いきや、そこにあったのは意外にも革靴を履いた人の足だった。その意外性に俺の怒りは一瞬にして掻き消されていた。

 足は俺を転ばせるには絶好の角度で爪先が上がっている。犯人はこいつで間違いない。が、一体誰の足なのだろうか――視線を足伝いに上げていく。

「…………ッ!?」

「やぁ」

「塾長!」

 塾長だった。何故か塾長が立っていた。煙草をふかしながらにこやかに手を振っている。いやいや待って下さい塾長。貴方来れないとかなんとか言ってませんでしたか?

「ハハハ、理解に苦しむと言った表情だね。しかしキミ、命は大切しないとダメだよ」

「ハ、ハァ……」

「ま、質問コーナーはちゃんと設けるからちょっと待っててくれ」

 言って塾長は俺の前に立ちはだかった。その背中は広く、見ているだけで安心感を覚える。塾長は煙草をポイッと捨てると――良い子は真似しないように――掌をモンスターの群れに向けた。

 瞬間、塾長の掌が魔力を帯びたと思うと突然炎の壁が現れ、あっという間にメイジキラーの群れを呑み込んでしまった。

 そして塾長が指を鳴らすと炎は忽然と姿を消し、モンスター達は影も形なくなってしまっていた。

「はい、お待たせ」

 塾長はくるりと振り向き、ニコリと笑った。

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