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島の夜⑧

 

 終わった。手にはまだモンスターの肉を貫いた感触が生々しく残っている。

「ハァ……ハァ……」

 安堵故の結果だろうか、体が震え足に力が入らない。俺は腰が抜けたようにその場に座りこんでしまった。

「ショウ!」

「ルカ……」

「やったね!」

「あ、あぁ……」

 ルカは興奮冷めやらぬといった雰囲気だ。

「勝てて良かったよ、ホント」

 彼女の言葉に、勝ったんだ、とようやく実感が湧いてきた。

「そうだな。勝てて良かった」

 俺はしみじみ答えた。たぶんこの島で一番辛い戦いだったと思う。ホント何度死にかけたことか。

 しかし、ポジティブに言えば『新鮮』だった。いや、それを言えばこの島で起こったこと全てがそう言えるかもしれない。今日初めて訪れたわりには既に思い出と言えるレベルの出来事が山ほどある。

「ルカ、ありがとな」

 自分でも不思議に思ったが、自然と感謝の言葉が口から零れていた。ルカも突然のことに若干照れている。しかしルカには悪いが、冷静に考えると彼女の代わりに今ここに塾長なり才崎さんがいても同じことを言っていたと思う。

 それはマンネリ化した生活から俺を引きずり出し、こんな素晴らしい刺激を与えてくれたことに対する感謝だからだ。

「いやいや、チミもよく頑張ったよ」

 照れ隠しかルカはしゃくれ顔でおどけてみせた。残念ながら然程面白くはない。しかし俺に元気をくれるには十分だった。

「変な顔……」

「ちょ、私はねぇ!」

「はいはい。アァ~疲れた疲れた! さっさと寝よう! 明日も早い!」

「あ、待て! 逃げるなーー!」

「残念。待ちませ~ん」

 疲れているにも拘わらず――特に俺が――無駄にじゃれあいながら寝床に戻ったのだった。


 寝床につくとすっかり焚き火は消えていた。一先ず俺は腰を下ろし再び火を着ける。パチパチと木が弾ける音が聞こえてきた。

 明かりが灯り辺りを見渡せるようになると横になる場所を探す。

 低反発と呼ばれる寝具達が世を席巻し、それをこよなく愛する俺にしてみれば、石や岩など猛反発しそうな場所で寝るのは御免蒙りたい。それ故出来るだけ柔らかそうな芝生が生えている場所を選ばせてもらった。

 ゆっくりと腰を下ろすと柔らかい感触が伝わってくる。うむ、ここならぐっすり寝れそうである。

 ベッドを決めるとルカにモンスター避けの透明な瓶を貰った。俺を夜のモンスターから守ってくれる大切なアイテムである。慎重に扱わねば。

 溢さないように蓋を取った。あとはムラの無いように自分が横になる周りに中身を蒔くだけ――と最初の一滴を垂らした時だった。

 再び茂みの方からガサガサと物音が聞こえてきたのだ。瞬間、俺の体は硬直した。そして初めてメイジキラーと遭遇した時の情景がフラッシュバックする。

「ねぇ……」

 ルカが俺に問いかける。皆まで言わずとも聞きたいことはわかる。勿論、茂みから何か聞こえなかったか、だ。俺は小さく頷いた。

 どうやら夜は長く始まったばかりらしい。俺は立ち上がり茂みに目をやった。まさかと言うかやはりと言うべきか……メイジキラーが姿を現した。

「マジか……」

 全力で嘆息。しかし今日を終わらせるためにも倒さねばなるまい。倒し方も分かったことだし、さっさとやってしまおう。ルカに借りた剣を再び構えた。

「シ、ショウ。あれ……」

 ルカが俺の袖を引っ張ると闇の中を指を差した。何だろうと指の先に視線を移す。

 するとそこには驚くべきことに何体ものメイジキラーが此方へ向かってゆっくり歩を進めていたのだった。

 自分の目を疑うなんて初めてだった。俺とルカをぐるりと囲むように黒い壁が立ちはだかる。ゆっくりと見渡すが隙間のすの字すら見当たらない。

 心の中でもう一度、冗談抜きで「マジか」と言わせてもらった。

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