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島の夜⑦

 

 俺が苦渋の末編み出した必勝の計――それはカウンターである。則ち相手の力を自らの力に変える戦法だ。

 今回の敵のように動きが簡単に予想出来る者には絶大な効果を発揮する戦法と言える。にも拘らず何故思い付かなかったか……やはり『攻撃』という概念は能動的な考え方と結び付きやすかったのだろう。

 そしてこの策を思い付くに鍵となったのはルカの「合わせる」という発言だった。合わせる――敵の攻撃に合わせて自らも攻撃する。

 そう、時として待つことも攻撃の一手段となりうるのだ。まさかあんな一人言が発想の元になろうとは。世の中何が必要で何が不必要か、案外わからないものである。

 効果はというと今ルカで試してみたが抜群だと言えよう。

 ルカの突進に合わせて俺は人差し指を突き出すだけ。しかし彼女は突然の出来事に対応しきれず、あわや俺の人差し指に激突、ということになりかねなかった――まぁそこら辺は俺が気を付けていたのであり得ない話ではあるが。

 ともあれ残すは実践のみである。俺は気合いを入れると勢いよく立ち上がった。

「よし、行くぞ」

「お! 覚悟決めたね」

「あぁ。けどその前に一つお願いがある」

 この策を成就させるのに必要なお願いだ。

「ん?」

「ナイフあるかな。いや、片手で持てる刃物だったら何でもいい」

 今必要なのは杖のような鈍器でなく、敵を一撃で葬れるような武器なのだ。

「う~んと、ちょっと待って」

 どうやら大丈夫なようだ。ルカは考えるような仕種を一瞬見せると杖を出してくれた時のように片手で持てる剣――刀で言う脇差くらいの長さだ――を出してくれた。

 準備は終わった。あとは奴を倒すだけである。俺は木陰から姿を現し、モンスターに目をやった。

「ルカ、離れてろ」

「わかった」

 ルカはヒラヒラと空に舞い上がっていった。確かに一番安全な場所かもしれない。

「ふぅ……」

 決着の時がきた。緊張か高揚か脈が早い。ドクドクと心臓の音が耳元で聞こえる。汗ばむ掌を胸にあて、落ち着けと自らに言い聞かせた。もう一度ゆっくりと息を吐く。体の強張りが緩んだ気がした。

「ところで……」

 魔法は何にしようか。本命は剣によるカウンターであり魔法は囮なので正直何でもいいのだが、何でもいいとなると不思議と迷う。

 時間と使える魔法の種類を加味した短慮の末氷槍(アイスランス)を使うことにした。これから冷たい刃をもって戦う故、氷の槍で元を担ごうという浅はかな理由だ。

 俺は静かに呪文の詠唱を始めた。指先に魔力を溜めそれをインク代わりに魔方陣を描いていく。そして詠唱の終了と共に魔方陣を描き終えた。あとは魔力を注ぐだけだがその前に剣を魔方陣の中央に突き刺すように構える。斯くして本当の意味で全ての準備が整った。

 俺はいよいよ魔方陣に魔力を込めた。魔方陣が魔力を吸収し、淡く輝き始める。普段ならさっさと終わるはずの作業が長く感じられた。

 そしてその最後の作業を終えると、魔力を十分に宿した魔方陣は煌々と輝いていた。これはつまり魔方陣の完成と勝負の時が訪れたことを意味していた。

 既にモンスターは高密度の魔力体を感知し、全速力をもって襲いかかってきていたのである。そこからは全てが一瞬の出来事だった。

 モンスターは飯の魔力に反応し、途中俺の姿に気付くと棍棒を振り上げ攻撃体勢に入った。しかしその顔はあくまで魔方陣を目指し、一直線に此方へ向かってくる。

 あっという間に何メートルもあった間合いは潰された。が、逆を言えば此方の攻撃も届く範囲に敵が入ってきたことを意味する。

 俺はほぼ無心で剣を魔方陣の中心へ突き刺した。

 剣は実体の無い魔方陣を通過するとモンスターの肌に突き当たり、皮膚、肉と順に貫いていった。やがて剣はモンスターの体を貫通すると再び外の空気に触れた。

「ギ……ギギゃ……」

「フゥフゥ……」

 メイジキラーと呼ばれたモンスターは目の前で崩れ落ちた。モンスターの腹部に突き刺さったままの剣から血が滴っている。

「グギギャーーーッ」

 モンスターは最後の力――おそらくだが――を振り絞り咆哮すると鋭い眼光で此方を睨み付け、そしてそのまま動かなくなった。

 すると体の肉は白い砂に変化していき、支えを失った剣はカランと音を立てて地に落ちた。

「ハァハァ……勝っ……た」


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