島の夜⑥
いよいよ反撃も第二段階へ入る。第一段階で黄色信号が点灯したが奴を倒さねば先へは進めない。というより今夜寝れない。ここは頑張って倒すしかないのだ。
俺はふと肩に座るルカに問いかけた。
「さて、何か妙案はあるかい?」
「後ろから近寄って杖でバコッて――」
「うん、却下」
やはり聞いたのが間違いだった。ここは自分で頭を捻る必要があるみたいだ。
真正面からぶつかっても無駄だということはわかっている。となると裏をかく様な戦い方がベストだろう。
確か塾長が言うにはあのモンスターは高密度の魔力体に敏感らしいが、これを何かに引用出来ないだろうか。
「なぁルカ、ちょっと聞きたいんだけど……魔方陣て一つずつしか描けないの?」
「う~ん、実力のある人だったら何個でも出来るった聞いたことはあるけど」
「そうか……今の俺に出来るかな?」
「それはちょっとわかんないかな」
なるほど、どうやら魔方陣一つ囮作戦は難しいらしい。ちなみにこの作戦は魔方陣を二つ用意し、一つを囮にもう一つの魔方陣で攻撃するという作戦なのだが、どうやら企画倒れになってしまったようだ。
では作戦変更だ。無い脳ミソを使い色々考えてみるが今一ピンと来ない。長距離から魔法で攻撃する作戦というのも考えてみたが、根本的に問題の解決になっていなさそうなので心の中で却下した。
魔方陣を描けば必ずやってくるがそこからが問題なのである。言うなれば、数学の問題で使うべき公式はわかるが解答が出せないでいるような、何とも歯痒い状況なのだ。
俺は頭を抱え考えた。そして自分が気付かぬうちに無言になっていたようだった。心地好い沈黙が辺りを覆う――と思いきやそうは問屋が卸さなかったらしい。
「もうこの際行っちゃう? 討って出ちゃう?」
何の痺れを切らしたのか分からないがルカが突然口を開いた。その突然ぷりとセリフの内容に思わず絶句してしまった。
「待ってたって埒があかないし、こっちから行けば向こうも驚くかもよ?」
「ハァ……本気か?」
「私待つの苦手なんだよね~」
「ハハ、じゃ恋愛も自分からコクるタイプか」
「い、いきなり何よ」
「別に、何となくそう思っただけ」
俺は溜め息を一つ吐いた。まったく、余分な会話に時間を使ってしまった。頭を切り替えて真面目に考えなければ。
「ま、確かに自分から行くけど、こう……向こうも私のこと好きだな~ってわかってからいくよね」
意外にも彼女の中では話は続いていたようだ。しかし反応している程暇ではない。悪いがここは一人言で我慢してもらおう。
「うん。やっぱ食い気味で来てくれたところに合わせる感じ? ふむ、我ながら的を射てるねこれは」
いつまで一人で喋るのだろうか。いい加減静かにしてもらいたい、と俺がルカに注意しようとしたその時だった。まさに青天の霹靂――これなら、と思える策が突然思い付いたのだ。
「あれ? あ……うん!」
「ど、どした?」
「あのさルカ、ちょっと悪いんだけど、そこら辺からこっちにちょいダッシュで飛んできてもらえる?」
言って俺は数メートル先の地点を指差す。ルカは首を傾げながらも了解し、指定した場所に着くと言った通りにしてくれた。
ぐんぐんと彼女が近付いてくる。そして俺の手が届く範囲に入って来た瞬間――。
「そらっ!」
「っとぉ! 何すんのさいきなり!」
完璧だった。ルカはあからさまにキレ気味の表情を浮かべるが完全に予想通りだった。迷路の出口が見つかったかもしれない。
俺は満面の笑みで答えた。
「あったぜ必勝法ッ」