島の夜③
さてどうしたものか。やはり何よりも体力を回復させることが先決だろう。俺は再び魔力の詠唱を始める。しかし――またもや最後の最後でゴブリンに気付かれ回復出来ずに吹き飛ばされた。
クソッまたか! 言葉にならない怒りが沸き上がる。しかし怒りでアドレナリンが出ているはずなのに体の痛みが和らぐ気配はない。ドラゴンファンタジーで言ったら画面がオレンジ色になっていることだろう。はぁ……何でこんなことをしているのか――という元も子もない考えが一瞬頭を過ったが結論は見えているのでその考えを直ぐ様シャットダウンする。
よし、先ずは落ち着こう。敵との距離はある。考える時間はあるはずだ。俺は木陰に隠れ腰を下ろした。
「ねぇショウ」
「ん?」
「これ飲んで」
言ってルカが手渡してくれたのは先程の透明な瓶と同じ大きさの青色の瓶だった。
「これは?」
「私特製の回復薬……本当は契約に入ってないから出す予定は無かったんだけど。今はこんな状況だから」
なるほど、ではありがたく頂戴する。瓶と言えど大きさは目薬ほど。飲むと言ってもほんの一口だった。味はまぁ……良薬口に何とやら、とでも言っておこう。
しかし効果は驚くべきものだった。飲み終わって直ぐに出血は治まり、腹部の痛みもそれに伴い治まったのだ。これはお礼を言わねば。
「あぁ、楽になった……ありがとう」
「良かった」
ルカは胸を撫で下ろした様子だった。どうやら心配をかけてしまったようだ。
「もう大丈夫。さ、反撃に移りましょうか」
今度は元気に笑うことができた。
「具体的にはどうするの?」
「うーん、ちょっと待って」
ルカを制しつつ俺はあの夜仕様のゴブリンとの戦いを思い返してみた。
まずは遭遇時。一瞬ルカに気を取られてしまい、その隙に一撃を食らった。そして二回目と三回目はほぼ同じシチュエーションで、魔法を使う寸前に攻撃された。ざっくり言うとこんな感じか。
より詳しく気になる点を述べるとすれば、ゴブリンは追撃をしてこなかった――つまり攻撃は全て単発だったということである。
ふむ、この中に解決の糸口はあるのだろうか。一つ一つ丁寧に検討してみることにした。が、どうやらそれを待ちきれない者がいたらしい。
「ねぇまだ?」
思わず子供かっ、とツっこみたくなる様な台詞だった。ルカは眉間に皺を寄せて俺の顔を覗き込む。
「うん、まだ」
「早くしないとまた来ちゃうよ」
「わかってるよ。ってか静かにしてくれ、バレたら大へ――」
とここで違和感を覚えた。何故ならモンスターと距離はあると言えど先程魔法を妨害された時とあまり変わらないからだ。つまり、本当ならこんな会話ですら気付かれてもおかしくないはずなのだ。
待てよ? そういえばあのゴブリンは魔法の詠唱中は襲って来なかったような気が――いや、確かにそうだ。最初以外は魔方陣に魔力を込めた直後に攻撃された。ふむ、これももしかしたら何かの鍵になるかもしれない。
よし、これらが意味することは何か――とりあえずいくつか仮説を立ててみよう。
一つ、夜仕様のゴブリンは視力が低い説。二つ、視力でなく聴力が低い説。三つ、両方が低い代わりに魔力を感知する能力がずば抜けている説。なんて突拍子もない、と怪訝に思われるかもしれないが思うとこ有っての仮説なので暫しご辛抱を……。
話を戻すが情報を整理したお陰で頭の中は大分スッキリした。では今立てたばかりだが早速仮説を一つずつ検証していこう。しかしその前にクリアしなければならない壁が一つ。
「ルカ」
「何?」
「……手伝ってもらいたいことがある」
ルカは一瞬キョトンとした顔で俺を見た。が、断られるかと思いきやがコクリと頷いてくれた。昼間は似たような状況でソッコーで拒否られたので心配したが良かった。
これで準備は完璧だ。いよいよ俺達の反撃が始まる。