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島の夜②

 

 ふむ、一匹で現れるとは珍しい。昼間見たゴブリンは常に二三匹で行動していたが単独行動が夜仕様の特徴なのだろうか。何にせよ夜のモンスターは強いというから気を引き締めよう。俺は立ち上がると杖を持ち臨戦体勢に入った。

 しかし――。

「待ってショウ……なんかおかしい」

「何が?」

「私、あんなゴブリン知らない」

 何ですと?

「この島は塾長が作った島ってのは知ってるでしょ? 私は塾長の手伝いでここにいるからこの島にいるモンスターは全部知ってるの。でもあんなゴブリン見たことない」

 それってどういう……。

「危ない!」

 突然ルカが叫んだ。しかし瞬間的にその意味を理解することが出来なかった俺は完全に反応が遅れた。

 刹那――茂みにいたはずのゴブリンは目にも止まらぬ速さで俺の懐に飛び込んで来ると痛烈な一撃を腹に叩き込んできた。腹筋に力を込める暇もなく鈍痛が全身に伝わる。さっき食べたピザが戻って来そうになった。

 加えて言うと人生初体験であるが、その一撃で決して軽くはないはずの俺の体が宙を舞ったのだった。より適切に表現するなら吹き飛ばされたと言った方が良いかもしれない。そしてそのまま近くに立っていた古木に背中を盛大に打ち付けた。

「ゴホッ……」

 背中を強打し息が出来ない。こんなダメージも人生初体験だ。

「ショウ!」

 近くでルカの声が聞こえる。しかしその声に応えることが出来ず、代わりにむせてしまった。しかもなにか吐き出してしまうというオマケ付きである。クソ、ピザが胃袋の果てから舞い戻ってきてしまったか。

 が、視界に映るそれは何か違った。ピザにしては固形物が見当たらない……むしろ純粋な液体の様だ。しかも焚き火のせいか心無し赤く見え――うむ、流石にこれだけ条件が揃うともう疑いの余地が無い。

「マジ?」

 吐血だった。我ながらなんとも素っ頓狂な声を出してしまったが、体のコンディションが最悪なだけにリアクションもこの程度である。

 普通の生活を送っていて血を吐くことなどそうそう無い。というか私生活で吐血すれば救急車呼んで即入院レベルの大事件だ。ただ残念なことにここは普通の世界ではない。傷は自分で治すしかないのだ。

 俺はふらふらしながらも立ち上がり、ゴブリンに注意を配りつつ今日覚えたばかりの回復魔法を使った。

「清らかなる羽、失いし命をつなぎ止めよ……」

 魔方陣を描き魔力を込める。と、その時――。

 今までキョロキョロしていたはずのゴブリンが何を感じたかわからないが、突然こちらを向くと先程と同じ様にとてつもないスピードで迫ってきた。

「嘘だろ!?」

 魔力の注入から魔法の発動まで僅かなタイムラグがあるのだが、ゴブリンはそのほんの僅かなタイムラグの間に攻撃してきたのである。今回は注意していたので杖による防御は成功したが、その代わり体力の回復をすることが出来なかった。ちなみに言うと今回も盛大に吹き飛ばされた。ただ今回は木にぶつかることなくそのまま地面を転げるに終わった。

「大丈夫?」

 再びルカの声が聞こえた。

「ハ……ハハ、大丈夫、に見えるか?」

 ルカは悲しげな顔で首を振る。「そんなしおらしい顔は似合わないぞ」と言いたいがそんな余分な体力は無い。だから俺は精一杯笑って見せた。

 そして皮肉にも吹き飛ばされたせいでゴブリンとの距離が取れたため、俺は冷静に現状打破の策を考えることにした。



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