エピローグ
気付けば早朝と呼べる時間帯になっていた。太陽が顔を覗かせるにつれ気温もジリジリと上がっているようである。今日も暑くなりそうだ。が、暑くなるのは置いといて――。
「うわぁ、チョー眠くなってきたんだけど」
何せ久しぶりのオールだ。酒は入ってないが十分過ぎる程の運動をしている。二十歳を過ぎた俺の体は圧倒的な睡眠欲に支配されていた。
「横になってるからじゃないですか?」
隣で上半身を起こしたアシュレイがサラッと言う。まるで憑き物が落ちたかのようなスッキリとした表情である。俺としてはその顔をまた見るために頑張ったわけだけど、いざとなると釈然としない。もう少し「先輩、僕を助けてくれてありがとう」みたいなオーラを出して欲しい。
「一睡もしないで運動してたんだ。仕方ねぇだろ」
言外に含ませてみた。
「それにしてもお腹空きましたね」
どうやら行間を読み取る気はないらしい。オーケイ、わかった。先輩いじけてやる。
「寝る」
「ここでですか?」
「…………」
「風邪引きますよ?」
「引かねーよッ! 逆に熱中症にならぁ! ったく、くらえッ!」
額に滲む汗を指で拭いアシュレイに飛ばす。
「ちょ、汚いッ!」
「汚ッ――お前先輩に向かってなんつー口を利くか!」
「っていうか急にどうしたんですか!?」
「うるせぇ! ここ最近真面目に文章考えてたから疲れたんだよッ!」
再び汗。
「うわッ、ちょ、そんなリアルサイドの話なんて知りませんて!」
「時には息抜きだって大事だろーが!」
「あーもうッ! どんだけ汗かいてんですか! っていうか話変わってきてるし!」
アシュレイは立ち上がり迎撃態勢に移る。
「もうダメだッ! 発つ鳥後を濁すのは偲びないがちょっとふざけないと次に行けんッ!!」
早朝のジェスラー山脈――朝焼けに照らされる二人の男。汗を飛ばす先輩にそれを避ける後輩。真夏の海辺で戯れる男女のように微笑ま――。
「しくないですからぁーーッ!」
らぁ――らぁ――らぁ――山脈に木霊するアシュレイの叫びというかツッコミ。
グッジョブ、アシュレイ。