続・先輩と後輩と④
気持ちと心持ちを一新させて試合ならぬ死合再開。脚に力を込めると一思いに爆発させ魔王との距離を縮める。
体勢を整えきれていなかった魔王は必然的に後手に回った。この一ヶ月――短いようで長く、長いようで短いこの期間。俺が成長したのはなにも破魔双装と詠唱破棄を扱えるようになっただけではない。全ての基礎である身体能力ももちろん成長していた。
だからこそ現状、錬破動を使わなくても魔王と対等に渡り合えているのだ。と思う。
「クッ――」
堪らず、と言った具合で魔王は空へと退避した。翼を持たない俺と相対する上でほぼ完璧な安全地帯である。俺としてはそこへ行かれると手も足も出るには出るが如何せん届かないので如何ともし難い。
「降りてこいコラァッ」
と、がなる俺。
「フン、少しはやるようになったか」
「お前は一ヶ月何を見てきたんだ?」
「チッ……今度は此方から行くぞッ!」
魔王は翼を大きく広げると猛禽類よろしく急降下してきた。突撃に落下の力を加えた攻撃――俺はすんでのところでそれを回避する。すると勢い余った魔王はそのまま地面に激突した。爆音と共に大量の砂煙が舞う。しかし――。
「甘いわッ!」
言って魔王が砂煙から姿を現し追撃してきた。そして大きく腕を振りかぶり拳打を繰り出す。瞬間反応が遅れていた俺は避けること能わずモロに食らった。
「ガハッ――」
弾かれるようにして体が宙を舞う。クソ、思いきり殴りやがって。俺は体を捻り体勢を戻す。そして着地と共に反撃に転じた。
着地の反動を使い追撃に来る魔王を迎え撃つ。
「――――――ラァッ!」
「――――――フンッ!」
互いの拳が轟音を響かせぶつかり合った。そして二合、三合、と続けざまに攻撃を繰り出していく。さすが一ヶ月共に生活しただけあった。攻撃は悉く相打ち――俺と魔王の中間で力が燻っている。が、いつ均衡が崩れてもおかしくなかった。
「チッ」
そう舌打ちをしたのは魔王だった。思うように戦えないためフラストレーションが溜まっているのだろうか。まぁこの一ヶ月の俺の成長具合は成長期真っ盛りのお子様すら目を見張る程のモノだった。はず。
「おいベルガザール!」
「――何だ?」
「男子三日会わざれば刮目せよって言葉知ってるか?」
魔王は沈黙。やはり知らないみたいだ。当たり前か。
「ヒトは三日もありゃ超絶レベルアップを遂げるって意味だ。で――ここは一つ聡いアシュレイに聞いてみよう。俺が言いたいことは何だろうか?」
「フッ……戦闘中にベラベラ喋りすぎですよ、先輩」
ッ!? その返しに思わず動揺してしまった。顔にはギリギリ出さなかったと思う。にしても自分でふざけておきながらアホ丸出しだ。とは言え今日初めて、一番アシュレイらしい言葉だったから仕方ない。
「――いいから答えてみろよ」
「僕がベルガザールとして先輩に会ってから一ヶ月。三日で超絶レベルアップするならあの時の先輩と今の先輩はもう別人になってますね」
「正解だ」
言って俺はもう一つギアを上げる。しかし久しぶりの――と言うほど久しぶりでもないが――アシュレイとの会話は俺の拳を僅かに鈍らせた。
そこから再び無言で、俺達は殴りあった。ま、そもそも敵と話ながら戦うというのも変な話ではあるが。
静かな夜。月の光に照らされ舞う様に二人の男が殴りあう。一心不乱に。これはこれで、シュール――か?
さて、いい加減疲れてきたのは俺だけだろうか。
「――ハァ――ハァ。お前も――大概、しつこい、な」
「フゥ……ハァ……」
魔王から返事は無い。返ってくるのは睨みばかり。しかし肩で息しているところを見ると奴さんもお疲れのようだった。
「で? まだやんのか? ハァ、ハァ」
「何故だ……」
ん?
「何故あの技を使わない!」
魔王は俺に向かって憎々し気に叫んだ。あの技……破魔双装のことか。
「あの技を使えば我など容易く倒せるだろう! なのに――なのに何故使わない!」
俺にはその言葉の意味をすぐに理解出来なかった。