島巡り⑥
「もぉ、いきなり大声出すとかホント意味がわかんないんだけど」
ルカが怒りながら睨んでくる。まぁ誰しも突然耳元で大声を出されれば怒るのも当然だろう。俺はひとまず落ち着いてから手刀を切って謝った。
「いや、ホント悪かった」
「次は許さないからねッ」
ビシッと人差し指を俺に向けるルカ。では先程のグーパンチは何だったのかという疑問が浮かぶがここは黙っておいた方が賢明かもしれない。
「でも、これでショウも魔法使いの仲間入りだね」
「あ、そっか……ハハ、なんか変な感じだな」
つい最近まで資格だ試験だ言ってた人間が魔法の習得の四苦八苦しているのだから当たり前かもしれない。
「フフ、次の戦闘はきっと楽だよ~」
「だといいな。楽しみにしておこう」
「んじゃ、あと二つちゃちゃっと覚えちゃおうか」
そういえば炎弾の魔方陣が書いてあった紙にあと二つ程魔方陣が書いてあったのを思い出す。しかし一つ魔法を覚えれば二個目からはそれほど難しい話ではない。俺はサクサクっと残りの二つも覚えてやった。ちなみにその二つは氷槍と癒しの羽と言い、これはこれで素晴らしい魔法――ルカ的にはまだチンケなレベルらしいが――であり機会があれば是非ともお見せしたい。
「よし、これでいよいよ出発だね」
「あぁ。けど大分暗くなってきたな」
「うん。だから行けるとこまで行こうよ。私に付いてこーーい!」
ヒラヒラ羽を羽ばたかせながらルカは楽しそうに先を行く。俺は次の戦いを楽しみにしつつ彼女の後を追った。
魔法の習得に思いがけず時間を食ってしまったようだ。辺りは既に夕闇で覆われており、街灯などが無いためにより暗く見えた。木々の間からはホゥホゥと梟の様な鳴き声も聞こえ、夜が本来持っていたであろう不気味さを強調している。夜道を一人――この場合妖精は除く――で歩くのはなかなか恐ろしいことなのだと初めてわかった気がした。
道中ルカとの他愛ない会話の中で聞いたのだが、夜になると昼間見ないモンスターが姿を見せるらしい。しかも昼間弱かったモンスターも夜になれば格段に強くなっているとか……。
他人の話に影響されやすい私は魔法を覚えたという自信と裏腹に一抹の不安を胸に抱きながら先を急いだのでした――言葉が既に畏縮しているがそこはスルーしていただけると幸いである。
「お、モンスターだ」
唐突にルカが言った。しかし大分離れている。ということはつまり魔法を使ってみろ、ということなのだろう。イエス・マム。
敵艦視認。ゴブリン級と判明。距離凡そ一〇〇。魔法発射準備開始。魔方陣良好、発射角度良好。チンケ魔法氷槍準備完了。カウントダウンスタート。三、二、一……発射!
「月夜に舞う精霊の凍てつく吐息に散れ……アイスランス!」
詠唱を終えると魔方陣から槍の穂先を型取った氷の塊が飛び出し、風を切りながらゴブリンめがけて飛んでいった。大きさ自体は大したことないがその尖端たるやお箸の如く鋭利である。
氷の塊は勢いを保ったままゴブリンに到達し、深々とモンスターの腹部を貫いたのだった。近くにいた仲間達は戸惑った様子で右往左往している。ここで一掃してしまうのも一つの選択かもしれないが魔力は有限。これからくる夜を考えるとおいそれ使うのは得策ではない。ここは静観がベストな選択だと思う。
というわけで静かに見守ることにした。気付かれないように木陰に隠れ息を潜める。すると願いが通じたのかものの数分でゴブリン達はその場から去ってくれた。
「行った?」
髪の毛の合間からルカが顔を出す。
「うん。大丈夫そうだな」
「そ。じゃそろそろ寝床の確保しとこうか」
「ん? え? 寝床の確保?」
「あ、つまり寝るスペースを手に――」
いや、その言葉の意味はわかる。
「俺が聞きたいのはルカがこう――ホテル的な建物を……」
「あぁ~なるほどね。そういうオプションも実際有るけど今回の契約には入ってないんだよね」
もしやと思うが、塾長けちりやがったか。
「ってことは……」
「そ、この島にいる間は基本野宿だよ」
マジですか。