先輩と後輩と②
休憩室を出た俺は街に繰り出しアシュレイの目撃情報を聞き回ることにした。共に仕事で訪れた場所を中心にミルメース全体を練り歩く。しかし成果は芳しくなかった。
どこへ消えやがったアイツ――そう毒づいた所でアシュレイが戻るはずもなく、一人であることを余計に感じさせた。
そもそも何故俺がここまで心を乱されるのか。その理由は考えに考え抜いてようやく今わかった気がする。それは一重に俺自身をアシュレイに重ねていたからだろう。
聞けばアシュレイは俺より年下であるにも拘わらず既に身内がいないらしかった。言うなれば天涯孤独。俺は仕事でこの世界へやってきてはいるが、そうは言ってもサンクに住まう人々とは一線を画す存在――元の世界には家族がいるからおこがましく聞こえるかもしれないが、文化が違い世界が異なれば想像以上に大変だったりする。そこが、というかそこを俺が勝手にダブらせていたのだ。
でも、だからこそアシュレイに何があったのか、何を思ったのか、何故いなくなったのか――その理由を知りたいし、知った上で彼の味方であり続けたいと心から思う。
「――どこに行ったんだよ」
見上げる空は俺の心と裏腹に雲一つ無い晴天だった。街は活気に満ちていた。道行く人々は皆笑顔だった。全てがいつもと同じだった。違うのは誰もいない俺の隣だけだった。
「ようショウ!」
そう言って歩み寄ってきたのはユンズ商店街で鍛冶屋を営むバリーだった。どうやら気付かぬ内に商店街にやって来ていたようだった。
髭面、焼けた肌、盛り上がる筋肉、腰からぶら下がっているのは鍛冶道具。肉食獣を思わせる顔付きは人懐っこい笑みを浮かべていた。
「あ、バリーさん」
「何してんだ今日は」
「え? あ、ちょっと……」
「? ってぇかアイツぁどうした?」
バリーの言うアイツはもちろんアシュレイのことだ。
「アシュレイは――今別の……」
「なんだ仕事か。ならいいんだ――いやな、昨日飲んで帰る途中見かけ――」
「ど、どこで見たんですか!?」
「えーと確か……街の入口付近だったかな。にしてもアイツ珍しくおっかねぇ顔してっからよ、声を掛けるに掛けらんなくてな。ハハハ、まぁ別に何にもな――」
「あ、ありがとうございますッ!」
俺はバリーに礼を述べると彼の話もそこそこに駆け出していた。
街の入口付近――あの辺にある酒場は日が変わる頃には皆店仕舞いするはず。となるとバリーが飲み終わった時間を推測するに難くない。そこから考えてみるとアシュレイは俺と別れてそのまま街の入口へ――ということになる。
クソ――やはりあの時止めておけばと後悔が湧き上がった。後悔先に立ってくれたらどんなに嬉しいことか。
大きな門がある街の入口へやって来ると一先ず聞き込みを開始した。しかしバリーの証言以外手掛かりとなるようなモノは無く、ただただ時間だけが過ぎていった。一応人が出入りする小さな門の門番に昨晩街を出た者がいないか尋ねてみたが誰も通していないとのことだった。
他に人が出入り出来る場所は無い。有るとすれば天に届かんばかりに聳える外壁を飛び越えるしかない。それも羽があればの話だが。とすれば残る考えとして――。
「――まだ街にいるのか?」
俺は自分の考えが正解であることを祈り再び街で探すことにした。
しかし残念ながら日が暮れ辺りが夕闇に染まる頃になっても何の成果も上げられず、仕方無く宿に帰ることにした。
「おかえりショウ」
言って出迎えてくれたのは宿の女将さんである。俺は小さく会釈し――それだけ疲れていた――部屋に戻ろうと階段に足を掛けた時だった――。
「そうそう、アンタに手紙が届いてるよ」
手紙?