表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
126/144

先輩と後輩と

 

「おいおいマジかよ……」

 そう言って珍しく面食らっているのは真向かいに座るデュランだった。デュランは歯切れ悪く口をモゴモゴさせ頭を掻いている。

「――で、家は?」

 隣に座るプリシラが紫煙を燻らせながら問いかけてきた。いつもの様に振る舞ってはいるがその表情は暗かった。

(もぬけ)の殻でした……」

 今朝いつもの時間になってもアシュレイが姿を見せず、待てど暮らせど一向にギルドへやって来る気配が無かったので、昨晩のあの横顔が気にかかったというのもあって俺はアシュレイの家を訪ねたのだ。しかし結果は今プリシラに答えた通り――蛻の殻だった。

「……フゥ。どこほっつき歩いてんだかあのバカッ」

 言ってプリシラはご機嫌ナナメといった様子で煙草を灰皿に押し当てた。

 場所はギルドの休憩室。向かい合う二つのソファに俺、プリシラ、デュラン、そしてミネルバが座っている。何故このメンバーになったか――それを話すと約十分程遡るわけだが……俺は最初アシュレイ失踪の件をプリシラに相談した。すると話の内容が内容だけに大勢の前で話す訳にも行かず休憩室に場所を移すことにしたのだった。

 ソファに座りプリシラが煙草に火を着け――と、そのタイミングでデュランとミネルバがやって来た。二人はプリシラに用事があったようだが。で、色々世話をしてくれたという好から結局デュランとミネルバも交え、根掘り葉掘りと言える程無い情報を開示し今に到る。

 しかし斜向かいに座るミネルバは思う所があるのかどうかは知らないが、ここへ来てアシュレイの一件を聞いてからずっと沈黙を保っていた。

「――それで? 他に何か思い当たる節は無いのかい?」

 そうプリシラに尋ねられ必死になって思い出してみる。しかし昨晩のあの横顔から感じた儚さみたいなもの以外はもう何も思い出せなかった。しかもそれは俺の思い過ごしかもしれないあやふやな情報である。ここで開示するのは如何なものか。となるともう本当に何も無い。裏を返せばそれほどまでにアシュレイとの記憶は短く楽しいものでしかなかったということだろう。

「すいません……」

「もう手詰まりかい――ったく」

 プリシラは苛立ちを隠す素振りなど見せず、その思いの丈を空になった煙草のケースにぶつけた。クシャッと紙の潰れる音がする。

「ねぇショウ――」

 とここで初めてミネルバが口を開いた。

「はい?」

「別にアンタを責めるつもりじゃないけど気付かなかったのかい? あの新人にこういう危うさがあったってことに」

「……え?」

「ハァ……アンタなら気付いてくれると思ってたんだけど」

 ミネルバは明ら様に凹むと静かに項垂れた。だが俺としてはまったく意味のわからないことであり、何と返事したらいいのか当惑するばかりだった。するとそれを見ていたデュランが口を開いた。

「いや~よ、新人がここに来てすぐだったか、こいつが言ってたんだよ――アイツは昔の自分にそっくりだって。他人を信用していない、真っ黒な眼ぇしてたってな。でもそんときはお前がいるから特に心配はしてないとも言ってたんだ」

「ちょ、余分なこと言ってんじゃないよ!」

 言ってミネルバは顔を少し赤らめながらデュランの大きな二の腕をペシッと叩いた。そしてバツが悪そうにしつつも続けた。

「ま、まぁあれだよ。早い内に新人見つけてやんな。ああいうのは放っておくと取り返しがつかないことになるよ」

「――はい」

 俺はプリシラの座っている場所を眺めながらう頷いた。

 そこは初めてアシュレイと出会った時、アシュレイが座っていた席だった。





 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ