祝賀会②
最初に疑問に思ったのは錬破動を使用している時だった。
錬破動は魔法で言えば補助魔法と変わらない。主な効果は身体能力を強化させる等、同じではないが同じ部類であると言える。
だったら錬破動を使用している時、もしくは補助魔法を使用している時、更なる強化を――と同時にもう一方の力を使ってみたくなるというのは人の性と言えるのではないだろうか。
俺ももちろんその一人。ここで話は最初に戻るが、ある日錬破動を使っていた時に補助魔法を重ねて掛けてみたところ、更なる強化が期待出来るどころか錬破動の効果も消えてしまったのである。
何故――。とここまで話してグラスを傾ける。唇を湿らせ喉を潤し話を再開する。
「――プハァ……でまぁその日から試行錯誤を繰り返してですねあの日ですよ――」
あの日とは丁度三日前、その日のトレーニングを終え皆が寝静まった後だった。ふと新しい角度からのアプローチを思い立ったのである。もう居ても立ってもいられなかった俺は宿を出ると――。
「おいおい、そんな話聞いてねぇよ。俺はどうやったらあの技が使えるようになるのかを聞きたいんだよ」
「……え?」
「え? じゃねぇよ!」
「いやぁ……」
「お前まさかここまで聞かせておいてそこだけは教えられませんなんてことはねぇだろうな」
「ハハハ――まさか……」
教えたくても教えられないだけですよ。自分でもまだ感覚の域を出ないのに、どうやって理論的に説明出来ようか。だが確かにここまで話を聞いてもらっておいて「すいません」じゃこの人は絶対に納得してくれないだろう。
さて、どうしたものか――俺がそう悩んでいるとやはり日頃の行いが良いせいか思いがけないところから救いの手が差し伸べられた。
「おいでショウ!」
一気飲み大会主催者のプリシラさんからのお呼びがかかったのだ。普段だったら絶対に拒否る所だが今日ばかりは感謝である。俺はいそいそと席を立った。
「おい、まだ話終わってねぇだろ」
クッ、しつこい。
「いや、でもほら……プリシラさ――」
と言いかけた時、颯爽と現れたのはミネルバだった。まさか二人がかりで俺を食おうというのだろうか。自然と身が引き締まる。
「その辺にしといてやんなデュラン」
「え?」
まさかの援護射撃に驚いてしまった。
「いいかい? ありゃ聞いてもアンタには使えない技なんだよ」
「はぁ?」
思わず素っ頓狂な声を出してしまったのは俺を含む男三人からだった。
「さて、どこから話したもんかね……。うん、そうだな――ちょい新人」
「は、はい」
「アンタもショウみたく錬破動と補助魔法一緒に使ったことぐらいあるだろ?」
「えぇまぁ……」
「そん時どんなんだった?」
ざっくばらんとしたミネルバの質問にアシュレイは何故か俺の方を見た。そしてしばし沈黙した後ゆっくりと口を開いた。
「――錬破動が消えたとかはありませんでした」
何ですと?
「うん、だろうね。アタシもそうだった。普通は重ね掛けで力が消える――この場合正確に言うと相殺だけど、力が消えるなんてことはないんだよ、ショウ」
「え、でも――」
「そう、アンタは違った。それは何故か……わかるかい?」
わかるわけもないので早々に首を振った。するとミネルバはニヤリと笑い話を続ける。
「相殺ってのはそいつの持つ破力と魔力が完全に同等じゃないと起きないんだよ。フフ、アンタも随分珍しい体質してんだねぇ」
「そうなんですか?」
「同じぐらいってのはいても完全に同等ってのはほぼいないよ。で、話を戻すが――簡単に言うとアンタみたいな体質じゃないと使えない技ってことなんだよ」
本当に簡単で驚かざるを得なかった。