祝賀会
代表選考会が終わり盟主の館を出ると外は既に日が暮れていた。外の暑さは和らいでおり、戦いで火照った体を冷ましてくれるようだった。加えて言うと腫れた顔なんかにも心地好かった。
珍しく朝から殺伐と、仲間内でギスギスしていたギルドのメンバー達は通常営業にシフトチェンジし、皆笑顔で行き付けの酒場に集合した。今日は貸し切りになっておりメンバー以外の客はいない。しかもプリシラの話では本日の飲み代は全部ギルド持ちらしく、それを聞いた瞬間皆昼間とは違った意味で殺伐とし始めた。
俺はいつもの席――そう言えるだけこの店に来ていると思うと何だか感慨深い――に座るとこれまたいつもの酒を頼む。しばらくして皆に酒が行き渡るとプリシラが乾杯の音頭を取り、華々しくも艶やかな――新たな死闘が幕を開けたのだった。
「先輩、大丈夫ですか?」
そう心配してくれるのは隣に座るアシュレイであり、心配の原因は俺の体である。その理由はもちろん試合が終わった直後に襲ってきた重度の筋肉痛的な激痛だ。まぁそれについてはアシュレイが魔法で治してくれたのだが、やはり主治医としてはまだその心配は払拭しきれていないようだ。
「ハハハ。大丈夫だって! 元気元気! ってか今日はもう調子悪いなんて言ってられないだろう?」
正直体の芯にはまだ疲れが残っているが疲れていても酒は飲める。飲めるし飲まなくてはならない。今日は特に。
「まぁ……確かに」
言ってアシュレイは釈然としないといった顔をしつつも自分のグラスに手を伸ばす。そして俺のグラスに軽く重ねた。
「お疲れ様でした」
「おう。アシュレイも」
それからしばらくは大人しかった宴もプリシラ主催の一気飲み大会が始まると更なる盛り上がりを見せ始めた。彼女の周りにドンドン積み重ねられていく空のジョッキ――と潰されたヤローども。あの恐ろしさを知っている者としてはよくやった、と誉めてやりたい気分になる。彼等こそ勇者なのかもしれないし、真性の馬鹿なのかもしれない。まぁ俺としては全体的に遠慮したいので顔は伏せておく。
するとそんな俺の空気を読まない輩が――先輩でなく輩が一人、元気良く声を掛けてきた。
「よッ!」
「…………よ、じゃないですよ」
「何で?」
言ってデュランは「樽か!」とツッコミを入れたくなるようなグラスを片手に俺とアシュレイが座るテーブルにやってきた。
「――あそこに行きたくないんです」
俺は顔を向けずに一気飲み大会の会場を指差した。そこで聞こえてくる新たな犠牲者の名前――お疲れ様というより御愁傷様である。
「ハッハッハ! ありゃ地獄絵図だな!」
「だったら静かにして下さい」
「やだって言ったら?」
「……どうもしませんよ。で、何か用事ですか?」
するとデュランはグラスをテーブルに置き俺の顔を覗き込む様に体を乗り出してきた。
「お前――あれ何だったんだ?」
デュランの言うあれとは――おそらく試合の終盤で使ったあのパワーアップの技のことだろう。強さに純粋で貪欲な彼らしい率直な質問だ。
「何って言われても……正直まだ俺も練習段階でちゃんとは説明出来ないんですけど――」
「あ、それ僕も聞きたい」
と、アシュレイ。そういえばアシュレイにも内緒の秘密の特訓で会得したから仕方ないか。
「んじゃここは一つショウ先生に講義してもらおうか」
「講義って……まぁ――じゃあちゃんと聞いて下さいよ?」
デュランはグラスを高々と掲げ「おうよ!」と返事をする。一応生徒を預かる俺としてはこんな生徒に授業はしたくないと心から思った。