終・代表選考会⑦
「ところで先輩。そのギャンブルの内容を教えてもらえませんか?」
アシュレイはいつでも動けるように準備をしながら問いかけてきた。
「内容って言っても何も変わんないよ。アシュレイはミネルバさんと戦ってくれればいい」
「え? ちょっと待ってください。それのどこがギャンブルなんですか? ッ! まさか――」
流石察しの良い後輩だ。
「そのまさかだよアシュレイ。俺がこの試合の勝負を決める」
「け、けど先輩――それはギャンブルにするには分が悪すぎます! それはもう賭け云々の話じゃない! ここでギャンブルをするならせめて勝率は五十パーセントはないと」
「ま、普通に考えたらそうだろうな。でももし勝ち負け半々に出来る要素があるとしたら?」
俺の言葉にアシュレイが怪訝そうな表情を浮かべ口を開いた。
「……何をするつもりですか?」
「何を――フフ、一言で言えば変身、かな。つっても見た目とかは変わらないと思う。その代わり……」
とここで一旦言葉尻を濁し、半身をデュランに向けた後続けた。
「――めちゃくちゃ強くなる」
「……はい?」
「いや、そこは聞き返さないでよ。何言ってんのみたいな雰囲気になってるじゃん」
「あ、あぁすいません。でも……ですよ先輩、凄く強くなるのなら何故そこにギャンブルの要素が?」
「それも単純な話だよ。この変身――というか技には時間制限がある。そしてその時間は――」
言って俺は人差し指をアシュレイの顔の前に突き出した。
「十分?」
「一分!」
遠い宇宙の果てからやってくるあのウルトラなヒーローよりも短い時間である。本当はもっとトレーニングを積んでせめてウルトラなヒーローくらいにはなりたかったのだが、トレーニング期間を十分に取れなかったため仕方ない。
「いッ! ちょ、ホントですか!?」
「いや、ホント。つまりこの賭けってのは俺がめちゃくちゃ強くはなるけど一分でデュランさんを倒せるかどうかってことだな。で、色々加味して出した結果が勝率五分五分ってこと。どうよ燃えてこない?」
「……燃えませんよ。本当に五分五分なのかすら怪しいです」
先程俺に付いてくる的な発言をしていたのはどこの誰だったか。はて、どうやら忘却の彼方に消え去ってしまったようだ。
「でも、それしか勝つ可能性は無いんですよね?」
「さぁ、もしかしたら他にもあるかもしれない。でも俺が出せる一番の結論は今のとここれしかない」
「……ハァ。わかりました――やりましょう」
なんとなく嫌々な感じで納得された気がするが――まぁ今は置いておこう。今は勝つことだけを考えよう。俺は屈伸をしてデュランとミネルバを見据えた。
「あ、そうそう。一応言っておくけどこの作戦はお前がミネルバさんと戦って勝つかどうかは置いといて負けないことが前提なんだからな?」
「了解です」
するとタイミングを見計らっていたのかなかなかのタイミングでミネルバが話に割り込んできた。
「そっちの作戦会議は終わったかい?」
「ええ。完璧ですよ」
「んじゃ、そろそろケリを着けようじゃないか」
「――もちろん」
言って俺は右の掌に魔方陣を――特に何の魔法についての魔方陣ではなく、単に魔力を放出するための魔方陣を描き、反対に左手には破力を纏わせてその二つを胸の前で合わせた。お手ての皺と皺のレベルでぴったりと。
そしてそこから精神を集中させ一気に魔力と破力を放出し混ぜ合わせる。すると二つの力は俺の手の中で衝突し大きな爆発音を響かせた。それと共に溢れ出る力の奔流――武舞台に小さな嵐が吹き荒れた。