終・代表選考会⑥
何だって? デュランの言葉は聞き逃していないはずなのに、出てくる言葉は純粋に疑問形だった。
試合が始まってどれだけ経ったかははっきりしないが、それでもその内容は刻一刻と変化しているはずだし、俺がこの作戦――と呼べる程大層なモノではないが――を決めたのだって行き当たりばったりの適当なモノでしかない。
にも拘らずこれをミネルバさんはこうなることを読んでいただと?
「驚いてるみたいだな――ん?」
言って余裕な笑みを浮かべるデュラン。その笑みは遥か高みからの、相手を見下ろす様なものであった。対する俺は現状から強がる他道は無く――。
「――別にッ!」
吐き捨てる様に言うと巻き込むように右拳を放った。簡単に言うと右フック!
「腰が入ってねぇぞコラッ!」
デュランは易々と俺の攻撃を払った。まぁ腕だけのパンチだから仕方無い――というか完全に動揺が攻撃に表れている。
「でも――そんなこと俺に話していいんですか?」
「もちろんミネルバには喋るなって言われたぜ? けどよ、喋ったらまた展開が変わるだろ?」
なるほど。結局は自分が楽しく戦えるようにってことか。しかしその前に、だ。
ミネルバはこの展開を読んでいた。そして読んでいたにも拘らずデュランにその内容を話すのみで、対策らしい対策の話をしていなさそうな雰囲気である。
と言うことは――だ。この展開になった所で問題は無い――言うなれば自分達の勝利は揺るぎないと考えているのではないだろうか。
だとすれば俺がデュランとマッチアップする――否、させることを前提に、ミネルバの中でこの試合を決めるポイントはむしろ――。
「ッ! アシュレイッ!」
俺は咄嗟に、アシュレイに注意を促すつもりで声を張り上げた。するとそれを聞いたミネルバが此方をギロリと睨み付けてきた。
「デュラン! また余分なことを言ったね!?」
「ハッハッハ! そっちの方が面白いだろ!」
「フン――まぁアンタがそうすることもわかってたけどね」
言ってミネルバは呆れた様に笑う。その笑みは色んな意味が含まれているように思えた。
「離れろアシュレイッ!」
俺は何か起きる前に、ミネルバに隙が生まれた瞬間に彼を一先ず退かせた。そして俺もそれに合わせて一旦デュランと距離を取った。
「急にどうしたんですか?」
「えぇ? ハハ、女ってコエーなぁって言いたくてね」
「……はい?」
「聞いて驚け。俺達試合始まってからずっとミネルバさんの掌の上で踊らされていたのだ」
「え?」
俺はミネルバの胸中を代弁するかの様に話し始めた。
初めは動かず、途中から個々に攻撃してくること。その際必然的に俺がデュランと、アシュレイがミネルバと組むように仕向けること。そして――アシュレイを自ら始末すること、を。
「――ってなわけだ」
「うわぁ……それが事実なら鳥肌モンです。しかし先輩、ここからどうするつもりですか?」
そう、そこが問題なのだ。
俺とミネルバ。俺とデュランが戦えば勝負はなかなか着かないだろう、だからこそアシュレイとミネルバ――二人の戦いでこの試合の勝負を決める、という点について考えは共通していたと言える。が、翻ってみれば彼女の考えを聞いてしまった以上、俺達の策は策でなくなったとも言える。
しかし――。
「アシュレイ、賭け事は好きかい?」
「ギャンブルはあまり好きではないですけど……」
「これから一勝負打つって言ったらどうする?」
「――僕は先輩に付いていくだけです」
言ってアシュレイはデュラン達に向き直った。その横顔からは一点の迷いも無いように見える。
フフフ、そんなに信用してくれちゃって先輩は嬉しいぞ。