終・代表選考会④
「先輩ッ!」
アシュレイが急いで駆けつけてきた。俺はどれだけぶっ飛ばされたのだろう――武舞台に突っ伏した状態からゆっくりと上半身を持ち上げる。
「お、おう……」
「大丈夫ですか!?」
「へへ、大丈夫に、見えるか?」
「ギリギリ……」
言ってアシュレイは小さく微笑むと俺に回復魔法をかけてくれた。と同時に痛みが引いていく。俺は殴られた頬を摩りながらどちらの拳で殴られたかを思い出してみた。が――。
「うわぁ……リアルに思い出せねぇ」
「……何がですか?」
「なぁ、デュランさんどっちの拳で俺を殴ってた?」
という俺の問いに対してアシュレイは身振りを加えながら思い返す。
「右――ですかね」
「ふーん。わかった」
俺は今一度頬を撫でデュランを一瞥した。伝わるかどうかはわからないが「覚えてろ」と含んだつもりである。
するとそれを受けてデュランがニヤリと笑った。ほほぉ、どうやら俺の心を察したよう……いや、本当に察したかどうかなんてわからない。あの人は「病気か?」と疑いたくなるほどいつもニヤニヤしているのだ。これもその内の一つかもしれない。
とまぁごちゃごちゃ言ってはみたものの、つまるとこ伝わったとして考えれば話はスムーズに進むのだ。というわけで――ほほぉ、どうやら俺の心を察したみたいだ。
「あの……先輩、集中して下さい」
「う、ぅえ?」
「今余計なこと考えてませんでした?」
フッ、俺の表情から何を考えているか察するなんて――やるようになったじゃないか後輩。
「そそそそんなわけ」
「ならいいんですが」
クッ、明らかに疑いの目で俺を見やがって。
「で、そんなことより先輩。何か良い作戦はありませんか?」
「作戦――ねぇ」
作戦が何かと問われれば、やはりいの一番に出てくる答えはミネルバを倒してからのデュラン、である。しかし先程もそうだったがミネルバを攻撃しようとすると間違いなくデュランがその護衛に移るのだ。
とすれば、やはりミネルバを攻略――試合的な意味で――するにはデュランを倒さなければならないのだろうか。あの肉の壁を打ち破らなければならないのだろうか。
「無いんですか?」
あったらとっくに話してるっての――喉元まで出かかった言葉を飲み込んだ。一方で良案を思い付いたのなら吐き出さなければならない――先輩というのも因果なポジションである。
「つっても――無いわけではない」
「……聞かせて下さい」
「――敢えて別々に戦う」
アシュレイは一瞬眉間に皺を寄せた。おそらくこれがどんな作戦か理解してくれたのだろう。すると俺が続けるより早くアシュレイは口を開いた。
「デュランさんは任せました」
「早ッ!」
「当たり前ですよ。だって破動で言ったら先輩の方が得意じゃないですか」
「ま、まぁな……」
確かに。この作戦タッグの総合力で戦うのでなく擬似的に個人戦を行うものである。であるならば互いの長所を生かせる相手と対峙するのは然るべき選択だろう。
まぁこの場合、一対一の勝負となると魔法はどうしても破動と相性が悪いと言えるため、俺がデュランとやり合うのは必然的というか、消去法で残された選択肢であると言える。
「あとは僕がミネルバにどこまで太刀打ち出来るか、ですね」
「ああ。何としても倒してくれ」
「フゥ……頑張ります」