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続・代表選考会⑤

 

 武舞台に到着すると既に対戦者が待ち構えており、恐ろしい形相で此方を睨め付けていた。思わずお金を出してしまいたくなる。

 一方で会場の熱気というかテンションというか……その温度は幾何級数的に上昇していくように感じられた。

「選手前へッ」

 審判が選手を武舞台の中央に呼び出す。そして試合の注意事項を聞かされ、フェアプレイを誓うという理由で選手同士が握手をした。気持ち強く握られた気がするが気のせいだろう。

 いよいよだ――手が震るえる。するとアシュレイが俺の肩に手を乗せると一言言った。

「先輩が成長したところを見せて下さい」

「……うん」

 もはや先輩としての威厳は何処かへ行ってしまった。しかし今は威厳を取り戻すことより、課せられたミッションを遂行、及び完遂することを考えなければならない。

 そう、それがどんなにインポッシブルなミッションであっても、である。

『解説のプリシラさん、この新人タッグをどう思われますか?』

『強いよ……酒はね』

 そりゃ貴女に何度も潰されてますから自然と強くなりますわな――酒は。

『そ、そうですか。オッホン――さてさて、酒の強さは兎も角、今日証明すべきは己の実力だぁッ! 第三ブロック第二試合、レディー……』

 瞬間会場が静まり返る。そして肌で感じる戦いの狂喜――手の震えは恐怖からなのか、はたまた武者震いなのか――。

『ゴォーーーッ!!』

 沸き上がる喚声と共に試合が始まった。もう後には退けない。

 俺は深く深呼吸すると後ろに控えているアシュレイに振り向いた。アシュレイはそれに頷くと踵を返し武舞台を飛び下りた。

『おぉっとぉぉおッ! ここで新人タッグまさかの展開ッ! あのデュランとミネルバがやってのけたことを再演するつもりか!? 無謀過ぎないか新人どもぉッ!』

 会場の喚声は一気にどよめきに変わった。そりゃそうだろう――と思いつつ審判を一瞥する。審判はもちろん――。

「じ、場外!」

 これで俺は一人になった。もう頼る仲間はいない。再び深呼吸すると相手の二人に視線を移した。

「ナメやがってぇぇ……クソがぁ」

 初戦の相手――鱗人族(スクレティアン)のマイルズと犬人族のロイ。ギルド内の立ち位置としてはアウトローと言ったところか。

 ちなみに鱗人族は爬虫類の様な顔つきと溢れんばかりの筋骨が特徴的な種族である。

 それはさておき対戦者のこのお二方。試合の開始前にも増して顔が険しくなっておられるような。

「……謝ったところで許してはくれないんだろうなぁ」

 弱気になってはダメだと思いながらも体はなかなか言うことを聞いてくれない。手の震えは一向に止まる気配はなかった。

 しかしだからと言ってマイルズとロイが止まるのを待ってくれるわけがない。鋭い眼光を発しながら俺に迫っていた。

 既に間合いに入ってはいるが脚が棒になってしまった様に動かない。仕方ない――とファーストアタックを二人に譲ることにしたその矢先だった――。

「先生頑張ってーーーーーッ!」

 なぬッ!? あまりの驚きに一瞬二人から視線を会場に向けてしまった。しかしその刹那――。

「死ねぇぇぇえッ!」

 マイルズの棍棒が頭上から振り下ろされて来ていた。俺は瞬時に視界を戻すとバックステップでそれを交わす。案外遅い攻撃で助かった。

 俺は二人から距離を置いて会場を今一度見る。すると此方に向かって大きく手を振るルカと子供達の姿があった。そしてその後ろには力強く頷くアシュレイの姿が――。

 なるほど。心は付いてますから――か。

 いつの間にか手の震えは消えていた。 


 

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