続・代表選考会③
「怒ってます?」
「…………」
「でも、これで敵の情報を聞き出せる可能性が出来たわけですし……」
「…………」
「それに、先輩がそれで勝てたらその後の展開はグッと楽になると思うんです――けど」
「…………」
「……ごめんなさい」
「だよな。普通はまずそこから入るよな。いきなり言い訳から入らねえよな? あのな、アシュレイ。勝手に話進めて勝手に決定して、もし勝てなかったらどうすんの? いや、別にな、俺も緒先輩方を差し置いて代表なろうなんざ思っちゃいねぇよ。けどな、あの人達と戦うって決めて今日まで来たわけ。な? それがよ、あんな交換条件で全部パァになったらどうすんの? え? アシュレイさんよッ!」
久しぶりにイラッとしてしまったので思わず言いたいことを全部言ってしまった。しかし言うほど後悔はしていない。
やはり俺の目標は代表になることでなく、この代表選考会でデュラン達と戦うことだから。
ところが俺の言い分を一通り聞いたアシュレイは凹むどころか強気な眼差しを向けてきた。
「お言葉ですが先輩……」
「な――何だよ」
「確かに勝手に話を進めてしまったことについては申し訳ないと謝ります。しかしですよ先輩。最初っから出来ないとか負けるかもしれないなんて言っていて、実際それをやってのけたあの人達と戦う時に勝てると言えますか? 先輩の目標がデュランさん達と戦うことなのはよーくわかっているつもりです。だからこそ確認させて下さい。先輩の目標はあの人達と戦うことですか? それとも戦って勝つことですか? どっちなんですか!?」
え……な、なんで俺怒られてるの? ってかなんでそんな強気なの? いや、あの、そんな睨まないで……。
「え、と――勝つ……こと?」
「何で疑問形なんですか?」
「か、勝つ……こと」
「ですよね?」
俺は口を尖らせながら頷く。何となく釈然としないがこう勢い良く正論っぽい議論を展開されるとぐうの音も出ない。
「だったら先輩も一人で戦ってみましょうよ。大丈夫ですって。先輩なら絶対やれます」
「――そう、かな」
「そうですって。それに僕思ったんです。これってきっとデュランさんからの試験なんだって」
「試験?」
「はい。だっておかしくないですか? デュランさんの性格からして自分の技を褒められておきながら、それをもったいぶって教えないなんて考えにくいです」
まぁ、確かに。あの人の性格を考えればあの場で手取り足取り教えてくれても不思議ではない。
「――そうかも」
「ですよね。だから――俺達と戦って勝つつもりだったらそれぐらいやって見せろ。って言いたかったんじゃないんですか?」
「……まぁ、うん」
アシュレイの話に矛盾は無く、むしろ辻褄が合いすぎて本人から話を聞いている気がした。しかしふと一つ、納得がいかない所に気が付いた。
「でもさ、デュランさんって――言っちゃ悪いけどそんな頭回るかな」
「最初僕もそれは思いました。でも忘れてませんか? 向こうにはミネルバさんもいるんですよ」
「あッ!」
なるほど、そうだった。クソ、完璧じゃねーか!
「わかってくれました?」
「あ……うん……なんか、ごめんなさい」
「いえ、気持ちが伝わって良かったです」
最終的には立場が逆転して終わってしまったが、まぁ良しとしよう。俺達の戦いはまだ始まってもいないのだ。これ以上関係を悪くする必要はあるまい。うん、これは負け惜しみなんかじゃない。だって……先輩だもの。
『さぁ次は第三ブロック第二試合だぁッ!』
気付けば俺達の出番がやってきた。