代表選考会④
俺とアシュレイ、そこにアベル達子供三人衆が加わっての特訓がスタートした。
しかし特訓と言っても内容はほぼ対デュラン・ミネルバ戦を想定してのもの。言うなればあの二人と戦うまで俺達が残っていてこそ、初めて意味が生まれてくる様な特訓である――ことは敢えて黙っておく。
ルカはルカで俺達が特訓に集中出来るようにと色々気を使ってくれた。お陰で充実した特訓をすることができたことは言うまでもない。
時に今回の特訓、普段のそれとは異なり一週間という短く定められた特訓である。そのため時間を無駄にするなんて当然出来るはずもなかった。それこそ一分一秒単位のレベルで――。
というわけでかくかくしかじか、そんなこんなとあれよあれよで……。
代表選考会当日――。
「あっという間でしたね」
「そうだな。まぁ、それだけ俺達が集中してたってことじゃないか?」
「…………」
「な、何だよその顔は……。いいか、別にはしょったとかそういうわけじゃない。今回の特訓が短期間だったからこそその説明も簡略化したわけであってだな――」
「それで?」
「いや、時にはこのくらいテンポアップして話を展開させるのも気分転換に――って別にそんな話は今いいだろう。ほら、始まるぞ」
俺は小さく咳払いすると前に向き直った。
そこには大勢の人――と言っても全てウチのギルドの者だが――がいる。そしてその大衆の前には少し高い台座の上に立っているプリシラの姿があった。
現在我々――ミルメース支部の面々は盟主の館の第二広間にいた。
その広大な空間の中央には正方形の大きな武舞台が設置されており、そこで代表選考会が実施されることになっている。そんな武舞台を見たギルドのメンバー達は皆いよいよかと殺気だっていた。
プリシラは台座から彼等を一望するとニヤリと笑い、静かに口を開く。
「みんなよく逃げずに来てくれた。まずはそれについて礼を言う。さて――今日は知っての通りウチの代表を決める日だ。それが何を意味するかわかるかい?」
言ってプリシラは暫し口を閉ざした。するとメンバーにはその意味が伝わったのか武器を持っている者はそれを翳し、武器を持たない者は持たない者で皆一斉に声を張り上げた。
「ハハハ! ウチのモットーは弱肉強食ッ! 強けりゃ誰も文句を言えやしない! 先輩やら後輩なんて関係ない! 気に食わない奴がいたらぶん殴れ! 今日は無礼講だよッ! さぁみんなッ、気合い入れて戦いなッ!!」
彼女の演説に会場は一気に沸き上がった。その熱に当てられ自然と此方のテンションも上がっていく。
その様子を見ながらプリシラは満足そうに頷く。そして会場が落ち着く時分を見計らって指を鳴らした。
すると彼女の更に向こう側にある鉄製の扉が大きな音を立てて開いた。そしてその中から数人の大男がそれまた大きな立看板を持ってやってきた。
男達はプリシラの元までやってくると恭しくその看板を立ち上げる。それと同時に再び会場から歓声が湧き上がった。
「あれは――」
トーナメント表だ。そりゃテンションも上がるはずだ。皆自然と一歩二歩と前に出てしまう。
ここで代表選考会の全体像を確認してみた。
二人一組のタッグ戦。今回の出場者数は総勢百二十名――つまり全六十チームから代表を選ぶ。トーナメントは第一ブロックから第四ブロックに別れており、各ブロック毎にシードが一つずつ。
そして各ブロックを勝ち抜いた者達が更にトーナメント式で対戦。第一ブロック対第四ブロック――第二ブロック対第三ブロック。と、ここまで来ると後は単純に最後勝ち残ったチーム同士で戦い、勝者が晴れて代表に選ばれる。
「で、俺らは――」
第三ブロックの第二試合が初戦のようだ。ではデュランとミネルバはというと――。
「俺達は第一ブロックのシードだぜ、ショウ」
聞き慣れた声が背後から聞こえてきた。俺は振り返りつつ口を開く。
「わざわざ教えてくれてありがとうございます。デュランさん」
「お前らはどこだ?」
「第三ブロックですよ」
「ほぉ、ということは戦うんだったら最後の最後か……へへ、途中で負けんなよ」
「そっちこそ」
俺の言葉にデュランは不敵に笑うとミネルバの元へ戻っていった。
「頑張りましょう先輩」
「――ああ」
言って俺はデュランの背中を睨み付けた。
『第一ブロック第一試合――』
ここで第一試合のアナウンスが聞こえてきた。代表選考会が始まった。