代表選考会③
『成長スル機会ヲ与エル。成長シタラ再ビ我ト戦エ』
『次会うのを楽しみにしておけ!』
そう言えばベルガザールにそんなことを言っていたか。
成長を約束し再戦の契りを交わす――普通だったら好敵手との間に交わされそうなものだが……あれから一週間以上経ってはいるが、果たして俺は成長出来ているのだろうか。
「……先輩?」
「え? あぁごめん。聞いてなかった」
「いえ、何も言ってませんけど――それより今度はボーッとしてどうしたんですか?」
「うん――ちょっと前のことを思い出してた」
「前の……こと?」
アシュレイは小首を傾げる。
「ハハ、大した話じゃないんだけどね」
「よかったら聞かせて下さい」
「ホント、大した話じゃないんだ。でもまぁ強いて言うなら約束事、かな」
「約束? 誰と――あ、もしかして……」
「あー違う違う! 女の人とかじゃないから!」
するとアシュレイは「では誰なのか」と問いた気な表情を浮かべた。まぁそれが妥当な感情だろう。
俺は一つ咳払いをすると話を続けた。
「ちょっと珍しいかもしれないけど……実は魔王なんだ。そいつ」
「マオウ? って魔王ですか!?」
「うん。そいつ俺に成長しろって、そしたらまた俺と戦えって言っててね」
「それで先輩は啖呵を切った、と」
「――え、何で知ってるの?」
「いや、何となくですよ。先輩だったらたぶんそう言うんだろうなって。ほら、先輩って時折ガツンって言うじゃないですか」
アシュレイの的確な分析力を前に俺は何も言えなかった。というより俺をそこまで見ていてくれたことに驚いた。
彼は徐ろに腕を組むと思慮を含んだ顔をしながら続ける。
「でもなんで先輩は魔王なんかとそんな約束をしたんでしょう……」
それはまるで自分には理解出来ないといった口調だ。
まぁそれに関してはあの状況ではそう言わざるを得なかった――というのが大きな理由かもしれない。
しかし正直に言えばあおの時奴との戦闘を楽しく感じてしまって自分がいたのも事実であるし、加えて言えばまた戦えと言われたあの瞬間――俺の胸は間違いなく踊った。
思うに、俺は幾度の訓練と戦闘を経験することによって、何時しか戦いに楽しみや愉悦を覚えるようになってしまったのかもしれない。
だがそれはきっと良いことではないのだろう。何せ俺が振るうのは結局のところ――暴力。それにプラスの感情を持ち込んではならないことぐらいわかる。
するとそんな俺の考えを読み取ったか定かではないが、アシュレイが思いついた様に一言溢した。
「あ、もしかしたら先輩は魔王を止めるために約束したんじゃないですか? 何せ先輩が振るうのは矛を止める――所謂武力ですからね」
「……武力?」
「あれ? 違いました?」
「いや――」
そうか武力か。矛を止めるための力で武力。翻って暴力とは則ち力の暴走――制御が出来ていないと言うことか。
フム、つまりは力をどう扱うか、どう方向付けるのか、が肝要ということか。
「先輩?」
「フフフ……」
「あの、どう――」
「ありがとうアシュレイ。何かスッキリしたよ」
「そうですか。なら良かった」
言ってアシュレイは優しく微笑む。
「うしッ! それはそうと――来週の選考会までガッツリ鍛えないとな! 頑張ろうアシュレイ!」
「ハイッ!」