代表選考会②
「デュランさん……今ミネルバって言いました?」
「おう」
やっぱり。となるととんでもないタッグが誕生してしまったかもしれない。
「先輩――あの、ミネルバって……」
「あ、あぁ――」
俺はミネルバについてアシュレイに説明した。
ミネルバ=フランシーズ――俺と同じ人間族でデュランと同じくギルドの古株。デュランが良い兄貴分ならば彼女は良い姉貴分と言ったところか。性格は破天荒というか天真爛漫というか――デュランと似たり寄ったりと言った方が分かりやすいかもしれない。
にも拘らず頭脳は明晰、実力はギルド内でも一位二位を争う程で『女帝』の二つ名で恐れられている。まぁ、簡単に言うと『凄い人』なのだ。
「そんな人がいるんですか」
「まぁ、ね」
「何がまーねよ」
「ッ!! ミ、ミネルバさん!」
いつの間にか俺の背後にミネルバが立っていた。
身長は俺より少し低いが、だからと言って甘く見てはいけない。
今日も今日とて全体的に露出の多い服装で、たわわに実った胸が今にも服から溢れそうだった。全身からは妖艶な雰囲気が漂っており、青少年に悪影響を与えること間違いなしだろう。
「何話してたのさ」
言ってミネルバがズイッと顔を覗き込んでくる。むせかえる様な香水の香りが俺の鼻腔を刺激した。
「いや……別に」
「フーン。で、デュラン――アンタ宣戦布告は終わったのかい?」
「ばっちしだぜぃ」
デュランは親指をビシッと突き立てる。
「ところでショウは誰と組むつもりだい? アタシらと戦うつもりならちゃんとしたヤツと組んどくれよ」
「え? あ、まだ……」
と頭をポリポリ掻きながら視線をミネルバから外すとアシュレイの姿が目に入った。
「??」
アシュレイはキョトンとした顔で見返してくる。そして数瞬目が合った。フム――よし。
「俺こいつと組みます」
「え!? ちょちょっ、先輩!」
「へぇ……見ない顔だね。新人かい?」
「はい。ピチピチの新人ですよ」
するとミネルバは「ピチピチは余計だ」と言いながらアシュレイを舐め回す様に眺めた。その絵はまるで……蛇に睨まれた蛙。
「な、何でしょう」
「フーン……フフ。ちったぁ楽しませてくれんだろうね」
「え、い、いや。ちょっとそれは……」
「まぁいい、当日楽しみにしてるよ。それとショウ――アンタ随分と腕を上げたそうじゃないか。がっかりさせないでおくれよ?」
「誰からそんな話を聞いたか知りませんけど――まぁ、善処しますよ」
「フフ、次会う時までしっかり鍛えときな……じゃあねショウ。またね新・人」
言ってミネルバはアシュレイの頬に優しいキスをするとデュランと共に何処かへ行ってしまったのだった。
二人が去った後、アシュレイは頬を触れながら一言――。
「……なんか凄かったですね」
思わず「ごもっとも」と言いたくなってしまったが正直それどこではなかった。俺の頭の中は既にあの二人に支配されていた。
「先輩?」
「ん? あ、あぁ……何?」
「難しい顔してますね」
「ハハハ、そりゃそうだよ。デュランさんはここじゃ五本指に入る~とか言われてるけど、それってあくまで総合評価。あの人力だけで考えたら間違いなくウチじゃナンバーワン……五本指に甘んじてるのは脳ミソまで筋肉でできてるから。にも拘らずその頭脳を補って余りあるミネルバさんが付いたとなると、正直勝てる気がしないよ」
ホント、考えれば考えるだけあのタッグの恐ろしさが浮き彫りになってくる。難しい顔になるのも無理はなかった。
すると突然アシュレイが俺の前に立ちはだかった。
「らしくないですよ先輩。頑張りましょうよ。先輩だって成長してるんですから!」
「ハハ……成長、ね」
その言葉を聞いた瞬間、ふと奴とのやり取りが脳裏を掠めた。