新メンバー③
何となく勢い任せではあったが話の突破口は開いた。となると後は問題無い。そこからの会話は実にスムーズに進めることが出来た。
お陰で彼について色々なことを知ることが出来た。生まれは北国で歳は俺より下、だとか歳の離れた弟が一人いる、等々。
気付けば小一時間程話し込んでしまったようだった。
「あ、じゃあそろそろ仕事についての説明をしようか」
「はい。お願いします」
俺はアシュレイを連れ立って休憩室を後にした。
部屋を出るとカウンターに座るプリシラが俺に意味ありなアイコンタクトを送ってきた。そんな長い付き合いではないが彼女の言わんとすることぐらい理解出来る。
要は「何を話したか洗い浚い教えなさい」ってとこだろう。俺は「了解」とアイコンタクトで返しておいた。ったく……人を困らせておいて良い度胸をしている。
掲示板の前まで来ると仕事の受け方や報告の仕方等、所々注意点を交えて説明した。アシュレイは真剣に俺の話を聞いてくれて、一度で理解してくれたようだった。
一通り説明を終えると一応アシュレイにわからない所はないか聞いてみた。
「いえ、大丈夫です。先輩の説明がとてもわかりやすかったんで」
せ、先輩? オ、オオゥフッ! いきなりだな。て、照れるじゃねーか……ったく。
「あ、あそ。うん、良かったね。オッホン――で、アシュレイはひ、昼とか食べた? まだだたら……お、奢るよ? その――先輩だし?」
「いえ、そんな悪いです」
この謙虚さ……ウチのギルドじゃそうそうお目にかかれる代物じゃない。今このギルドでこういう謙虚さを持っているのは俺ぐらいだろう。仲間が増えて先輩は嬉しいぞ、後輩。
しかしここからはちょっと真面目な理由でもう一度誘ってみた。
「そっか。でもこの街に来てまだ短いんだったら街を知る上でもちょっと出掛けよう。街を知る、イコール仕事の効率アップ。だからね」
「あ、なるほど」
「そ。んじゃちょっと行こうか」
「ハイッ」
「でもその前に……」
俺は掲示板から手頃な仕事を一つ選ぶとアシュレイに手渡した。
「これは?」
「折角街に出るんだし、ついでに仕事を――ってのも効率アップの秘訣だよ」
「ハイッ」
「よし、じゃあ行こうか」
俺はアシュレイと共にミルメースの街へと繰り出した。
時刻は昼過ぎを更に過ぎて午後。陽射しも幾分優しくはなったがそれでもまだ外は暑い。中央通りは相変わらずの人だかりで大いに賑わっていた。
俺はアシュレイに街について色々説明しながら、ここでの生活で学んだ知恵を伝授していく。その全てを彼はスポンジの様に吸収していった。どうやら頭脳明晰らしい。
今日は時間も時間なだけにギルド周辺を中心に見て回った。どこをどう回るか考えながら歩く自分はまるでツアコンだった。
「どう、この辺は大体わかった?」
「ええ。とてもよくわかりました」
「そりゃ良かった――ってこんな時間か。そろそろ仕事に行かないと」
「仕事……ですか?」
「ほら、出てくる前に一つ選んだヤツあるでしょ?」
「あ、はい」
「俺も手伝うから一緒にやってみようよ」
「――ハイッ」
アシュレイは嬉しそうに顔を綻ばせると精一杯俺にお辞儀をしてきた。本当にこの男はどこまで律儀な男なのだろうか――と、そんなことを考えつつ仕事場へ向かった。
今日の仕事は貿易品の荷出し――所謂力仕事と言うヤツだ。暑がっていた割にはよくそんな仕事を、と思われるかもしれないがこれには山よりも低く谷よりも浅い理由がある。
ウチのギルドのノリを考えると今日は間違いなくアシュレイの歓迎会が開かれるはず。となると歓迎会は行きつけの酒場で開かれるだろう。そしてそこには間違いなく酒が出てくる。
そう、この仕事を選んだ理由は一汗かいてその酒を美味しく飲みたいからだ! とはアシュレイに言えるはずもなかった。